シュールな光景 4 <胎盤を食べる>

うさぎ林檎さんのTwitter経由で食品安全情報blogの「出産後胎盤を食べることー研究者が研究上の利益とリスクについての認識を探る」という記事を知りました。

過去十年、健康増進のために胎盤を食べることが増えて来た。しかし医師や患者はどのくらいその正または負の影響を知っているのだろうか? The Journal od Alternative and Complementary Medicineに医師と患者の胎盤食についての見解を評価した研究が発表された。多くの人が胎盤食について知っていたがその利益やリスクについてはよくわからない。精神疾患を経験した女性が胎盤を食べようと思う可能性が高い。
胎盤の食べ方は生、調理、カプセルにして、などがある。学歴や収入が高いほうがやってみたいという意識が高い。これは保険がきかない代替療法へのアクセスが収入が高いヒトのほうがよいというこれまでの結果と一致する。実際に食べる人は極めて少ない。
(お金持ちでちょっと見栄っ張りな人はいいカモなんだよ)


ちょうど10年前に、私は琴子ちゃんのお母さんの「助産院は安全?」というブログにであって、代替療法さまざまな思想や価値観が跋扈する助産師の世界の深い闇に気づいたのでした。


特に助産所を発端に広がる代替療法には驚いたのですが、戦慄するほどショックを受けたのが「胎盤を食べさせる」ことをブログに書く助産師が何人もいたことでした。


それから2年ほどしてkikulogのコメント欄で私が胎盤を食べることに対して生理的嫌悪感を書き込んだところ、「なぜだめなのか」「生理的嫌悪感だけでは納得できない」「なぜ自分の体から出たものを自分自身や家族で食べてはいけないのか」というニュアンスの反論がありました。
たしかに。
「生理的嫌悪感」では、それこそ「好きか」「嫌いか」の気持ちの問題でしかないわけです。


また、「胎盤を食べるなんて聞いたこともない。本当にどれだけ社会に広がっているかわからないことなので、あえて書かないほうがよいのではないか」というコメントもありました。
たしかに。
知らなくて済む世界をあえて知ることで、広がらせることにもなります。


でも確実に、妊婦さんたちや助産師の間でじわりじわりと浸透している感じはありました。
積極的にしようとは思わなくても、なんだか良いことのようなニュアンスで受け止めている人たちが。


日々、実物の胎盤に触れている私とって胎盤とは、娩出前であれば巧妙な機能を有する臓器であり、娩出後は感染予防対策に基づいて処理するべき医療廃棄物です。


胎盤というだけで何か効果を得られるようなイメージを持ち、さらに食べたいと思うのは、実際に胎盤を見たことがないからでしょうか?
でも、それなら実際に胎盤を見たり取り扱う機会がある助産師の間で肯定的に広まるのは何故なのだろう。


<医学では答えは見つからない問題>


周産期医学関連の本の中には、「胎盤食」に関して書かれたものは見つけられませんでした。
医学の中では答えがないのかもしれません。


久しぶりに、この胎盤食で検索したら、「世界の最新健康・栄養ニュース」といサイトに記事がありました。

「プラセンタを食べる:エビデンスはなく、リスクも不明」
2015年6月7日 Eurekalertより


プラセンタ(胎盤)を食べることで、抑うつや疼痛の予防効果などの健康利益があるというエビデンスは存在しない、という米国ノースウエスタン大学からの研究報告。


以下のことが明らかになったという。


●プラセンタは産後うつを予防しない。痛みを軽減しない。活力を与えない。母乳産生を促進しない。
●セレブの間で流行しているが、ヒトを対象にした研究結果は報告されていない。
●女性と子どもに対するリスクは未知数である。


研究チームは、プラセントファギー胎盤食)に関する最近の10件の研究論文を調査した結果、プラセンタを生あるいは調理やカプセル化して摂取することで、産後うつの予防、産後疼痛の軽減、活力の亢進、乳汁分泌の促進、皮膚の弾性を高める、母子の結びつきを強化する、胎内の鉄分補給を示唆するヒトあるいは動物実験のいかなるデーターも見つからなかった、と『女性精神衛生アーカイヴス』に報告した。



さらに、プラセンタを摂取することの安全性に関する研究も見つからなかったという。

「プラセンタに効力があったという女性の体験談は数多く存在するが、系統的にプラセンタ摂取の効果や安全性を検討した研究は未だに存在しないようだ」と主任研究者のクリスタル・クラーク博士は語っている。「マウスを用いた研究はヒトでの有効性の証明にはならない。」


「プラセンタの貯蔵や調理に関してはいかなる法規制も存在せず、摂取法に関する一致した見解も存在しない」と筆頭研究者のシンシア・コイルは語っている。「女性は自分たちが何を食べているものか実際にはどんなものかを知らない。」


「疑問に答えるための研究が必要だ、とコイルは言う。本研究が女性と医師の間での産後の計画についての対話を促進することを希望しているという。そうすることで、医師は患者に彼らの診断治療プロセスのどこに曖昧性が残るのかをきちんと伝えることができるだろう。


クラーク博士は、妊娠した患者が産後に自身のプラセンタを食べることで抗うつ剤の効果を阻害しないか尋ねられた経験をきっかけにプラセントファギーに興味を持つようになったという。どういうことなのかよく知らなかったので、他の患者い聞いて回ったという。


「私は予想以上にそれば広まっていることに驚いた」とクラークは語っている。

ヒト以外のほぼ全ての哺乳類が、産後にプラセンタを食べることが知られているが、北米で産後に女性が実際にプラセントファギーを行うという文献が初めて現れたのは1970年代だった。最近ではマスメディアによる宣伝もあってそのいわゆる健康効果が広く知られるようになり、より多くの女性が産後回復期のオプションのひとつに考えるようになったという。


「この数年の間に急激に一般化した」とクラークは言う。「我々の感覚では、人々はそれを医師との対話で科学的な根拠に基づいて決めているわけではない。テレビのレポートを見たり、ブログなどのウエブサイトで知った情報に基づいて判断している女性もいるようだ。」

エビデンス」と言う言葉も正しいか間違っているかと言う意味ではないですし、医学は「生き方」は教えてくれないですからね。



胎盤を食べる。
他の哺乳類は当たり前かもしれないけれど、ヒトだとなんだかシュールに感じるのは何故なのでしょうか。



<追記>
食品安全情報ブログからの引用文に「精神疾患を経験した女性が胎盤を食べようと思う可能性が高い」とありますが、おそらく文脈からアメリカでは「産後うつに効く」あたりが注目されているからではないかと思われます。



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