行間を読む 61 <プラセンタエキスの歴史>

胎盤食べようと思わなくても、「プラセンタエキス」なら何か良さそうと心が動いた女性は多いかもしれません。


最近、「生プラセンタ」という広告を電車内で見かけて、仕事外でも日常的に生の胎盤を思い浮かべる機会が多くなり、「あ〜シュールな世の中だなあ」とため息がでそうです。


「生プラセンタ」で検索したら、こんな喜びの声が。

●以前より身体が軽くなって仕事がはかどるようになった。
●3日目で表情が澄みわたるようになったのを実感した。
●10粒から20粒に増やした、少しでも効果を実感したくて。実年齢に見られることはない。

効果が認めらるのであれば保険適応にして、全てのおじさんおばさんに飲ませればよいと思うの。
高齢者の定義を75歳以上にして、いつまでも働きたい元気な老人にするために、ね。


最近、医療機関でもプラセンタ療法を掲げているところを見かけるのですが、あれは自費だと思っていました。
ところが、ちゃんと保険適応として販売されているものがあるのですね。知りませんでした。
とある美容クリニックのHPにこう書かれていました。

当院で使用しておりますプラセンタ注射は日本の病院において、正常分娩時一緒に分娩されたヒトの胎盤より作られております。
1956年メルスモン(更年期障害)、1959年ラエンネック(肝機能障害)が健康保険の適応となり今日まで使われております。


ちなみに注射薬はヒトの胎盤で、それ以外の医薬品・健康食品・化粧品はブタ由来だそうです。


私が生まれる前からこんな注射薬があったのですね。
更年期障害」の適応とされていますが、私が勤務して来た施設では見た記憶がない薬です。


60年以上使われているから「効果があるから保険適応か」といえば、そうではないのかもしれません。
臨床でずっと「消炎作用がある」と処方されていたダーゼンが効果がないことがわかって保険適応から取り消しになったのは、記憶に新しいところです。




<プラセンタエキスの歴史>


そのメルスモンの開発史が詳しく書かれているものが、案外簡単に見つかりました。
「プラセンタ療法と統合医療」「日本胎盤臨床研究会 研究要覧 No. 2, 2006」という記事が公開されています。


その「歴史面から見たプラセンタ療法」に、経過が書かれていました。

第1の流れとして、太平洋戦争末期の1943年、極度の食糧不足解消のために国家命令で「高度栄養剤」の開発が始められ、京大医学部産婦人科の三林隆吉博士(1898〜1977)が胎盤から経口栄養剤を創製している。これは戦後間もなく一般医薬品として販売される内服薬『ビタエックス』の母体となり、現在は森田薬品工業株式会社が製造販売を受け継いでいる。

第2は、組織療法研究所および組織研究所の流れである。戦火で疲弊した敗戦後の医学界には欧米や旧ソ連から新たな知見がもたらされるが、これに反応した各地の勤務医や開業医が胎盤の埋没療法、あるいは冷蔵保存した血液を体に戻す治療法などを行った。こうした活動は、昭和27年の朝日新聞に「赤い注射薬」(もしくは「赤い治療法」)として紹介されたそうである。
研究グループは埋没療法よりも安全で投与しやすい注射薬の開発を進め、1956年にメルスモン製薬会社を設立して医薬品「メルスモン」注射薬の認可も取り今日に至って居る。

第3は、稗田憲太郎博士(1899〜1971)によって創製され、1959年に医薬品の許可を得た注射薬「ラエンネック」である。稗田博士は小説の主人公さながらの波瀾万丈の人生を送った学者で、終戦満州医科大学で迎えられたのであるが、帰国せずに八路軍人民解放軍)に身を投じて医療活動に携わり、その過程で先に述べたフィラトフやスプランスキーの論文に触れて独自の研究を重ねながら、戦地の傷痍軍人の治療を通じて組織療法を究めていった。
稗田博士は8年間を中国各地で過ごし、1953年に帰国してからは久留米大学病理学研究室で教鞭をとり、医学部長を兼務、また久留米組織再生研究所を興して胎盤を医療に活用する多くの医師を育てた。稗田博士のラエンネックは、現在は株式会社日本生物製剤によって製造販売されている。

第4に、久嶋勝司博士(1911〜2005)の流れがある。九嶋博士は秋田大学の初代学長になられた方であるが、主に更年期障害を対象に埋没療法を研究された。その流れを汲んだ静岡の乾医院の乾審、乾達医師とともに1960年頃から研究開発に当たったのが明壁芳蔵氏で、同氏は77年にスノーデン株式会社を設立、プラセンタエキスを含有する医薬品、健康食品、化粧品の製造販売を手掛けて今日を迎えている。

なるほど、タンパク質が足りなかった時代に、胎盤の活用が模索されたというあたりが始まりなのかもしれませんね。


そして当時、保険適応になった製品もあるけれどその後は医療の主流からははずれ、「胎盤の持つ効果への幻想」は社会に残り続けたという感じでしょうか。
この基調講演の記事の最後の「まとめ」にこう書かれています。

(1)プラセンタ療法は生体のシステムを活用した治療方法である。すなわち、従来の西洋医学とはかなり異なった治療法であるといえよう。



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