10年ひとむかし 19 <石油から繊維>

身の回りに軽くて暖かい素材が増えたことの恩恵に、もうひとつ、「刺激が少ない」ことがあります。


保湿剤が必要になり始めた頃よりももう少し前、30代の頃から、ウール系の服を着ると肌がチクチクと痒くなり始めました。
それまでは、冬にはモコモコのウール素材のセーターを直接素肌に着ても平気でしたから、冬場の服はおしゃれなニットが中心でした。


しだいに首回りがチクチクとして不快になり、さらにブラウスなどの上から着ても手首などにセーターが少し当たった丈でも苦痛に感じるようになりました。
10月終わり頃まで半袖を着ている比較的暑がりな私でも、さすがに真冬は寒いです。
ウール系が着られなくなったら何を着たら良いのだろうとちょっと悲観的になっていた頃、ババシャツが広がり始めました。


30代の頃ですから「ババシャツ」なんて嫌だなと思ったのですが、着てみるとこれが軽くて暖かいのですね。
そしてポリウレタンとかなのに、それまでの化学繊維の「ベタベタする」というイメージを覆す着心地の良さでした。
そして素材もどんどんと薄くなっていったので、着ぶくれしなくて済みます。
ババシャツと薄めの服だけでも、真冬を過ごせるようになりました。


それまでは木綿とか絹、あるいはウール100%、麻100%といった天然素材が良いものだと思って選択していたのですが、90年代頃から私の被服での化学繊維の比率が俄然高くなりました。
東京都クリーニング生活衛生同業組合のHPに繊維とはにその種類の一覧がありますが、今やほとんどが化繊かもしれません。


90年代頃から身の回りに質の良い化学繊維がどんどんと増えた印象があるのですが、「軽くて暖かい」だけでなく、「チクチクしない」「吸湿性もよい」「伸縮性もある」といった機能をもった繊維が増えたおかげで、冬場も暖かいウールに勝る素材のセーターを着ることができるようになりました。
そして、天然素材に比べて値段もお手頃ですしね。


ただ、まだ冬物売り場では、ウールやアンゴラといった天然素材のセーターが主流なので、「あ、おしゃれ」と思って手にとっても残念ながら着られないことがしばしばです。
そんな時には、店員さんに「だんだんとウールだとチクチクして着られなくなってしまって。ウールでないセーターがもっと増えると助かるのですけれど」とアピールして店を出ています。


中世末期に初めて綿を見た北ヨーロッパの人たちが「羊のなる植物」を妄想した時代があったなんて信じられないほど、私が子どもの頃にはもう木綿は身近な繊維になりました。
木綿とウールという天然素材が被服の良い材料で、化学繊維は安くて質も悪いという印象が強かった子どもの頃から、さらにこんな時代になるとは想像もしていませんでした。


「石油から羊が生まれる」ぐらいの驚きですよね。


軽くて暖かくてチクチクしない冬の衣服を手頃な価格で着ることができて、なんて幸せなんだろうと思います。




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