正しさより正確性を 2 <ビタミンKを否定する感情の背景にあるもの>

ごくごくたまになのですが、妊婦健診中に「生まれた赤ちゃんにK2シロップを飲ませたくない」とおっしゃられる方がいます。


どのような情報をきっかけにそのような気持ちになられたのかは、健診中の短時間の会話では推し測れないものがあります。
ある方は、「K2シロップの必要性は知っています。でも添加物が心配」とのことでした。
「出生直後の赤ちゃんに消化管出血や、時に頭蓋内出血が起こる」「それを予防するためにK2シロップを飲ませる」ことは、ご存知なのです。
たぶん、それが実際にわが子に起こった場合を想像できないから、知識と理解に矛盾が生じるのかもしれません。


<オーストラリアのニュース記事から>


先日、「うさりーぬめも」経由で「食品安全ブログ」の記事「自己陶酔的な活動家のせいで赤ちゃんが死んでいる:止めなければならい」というオーストラリアの新聞記事を読みました。

Jame Hansen April 1,2017


あなたの死にゆく赤ちゃんの集中治療室のベッドのそばに為す術もなく座っていることは、親として直面できる最もおぞましい経験である。


私は知っている。私はそこにいた。


圧倒的無力感と親として最も基本的な仕事は子どもを生かすことだったのに無惨に失敗したことがひどく苦しめた。一週間前、小さな一ヶ月の赤ちゃんは大量の、不可逆的な脳出血をおこしたービタミンK欠乏で、新生児脳集結(*)は1960年代にはNSWで年に15人の新生児を殺していたが1970年代初期にビタミンK注射がルーチンになってほぼゼロになっていた。
母乳はビタミンKが少なく、乳児はしばらくの間十分な量を作れないのでこの単純な注射が数千人の命を救ってきた。


ちょうど2週間前、我々は反ワクチンムーブメントがビタミンK欠乏による赤ちゃんの出血増加をおこしていることを書いた。反ワクチン活動家達がナチュラルでないものを危険だと宣伝しているためである。


この赤ちゃんと親は、反ワクチン活動の中心地であるNSW北部に住んでいて、反ワクチン活動かによる愚かな無責任な誤情報の犠牲者である。


彼らはインターネットを使って間違った情報、フェイクニュース、ジャンクサイエンスを拡散し、恐ろしい逸話で飾り立てる。助産師やドウーラすらいる。


過去20年間に親が注射を拒否した赤ちゃんの死亡事故が6件ある。NSW健康研究では親が拒否したために注射していない赤ちゃんが数千人いる。


NSW北部の反ワクチンムーブメントの創始者であるMerl DoreyはビタミンKの有害性についての「情報パック」を10ドルで売っている。その中で母乳のビタミンKは少ないが欠乏しないと書いている。彼女には何の資格もない。このようなことは止めなければならない。


(やつらは自然に死ぬのはしかたない、とか言うんだよ)


(*「出血」の変換ミスと思います)


<新生児が「それで助かってきた」事実を認められない感情の背景>


オーストラリアのようにビタミンKを注射で新生児に投与する国もありますが、日本の場合にはK2シロップとして飲ませる方法が行われています。


赤ちゃんに対する「かわいそう」という感情については以前書きましたが、生まれたばかりの赤ちゃんに注射をすることは、とりわけ初めてのお母さんには思いもよらないほど強い不安や精神的な負担をもたらすのかもしれません。
そんな「不安」から、反ワクチン運動へとたどり着いてしまう可能性もあることでしょう。


では、注射ではなく飲ませる方法をとっている日本の場合には、どんな感情が否定的な方向へと向かわせるのでしょうか。


「自然なお産」が広がり始めたころの「医療介入されたくない」から、「産む力と生まれる力がある」といった万能感、あるいは「医療は使いたくないけれど代替療法は積極的に取り入れる」といったアンビバレンツな感覚の中で、ビタミンK2シロップは飲ませないという方がぼちぼちといらっしゃいました。


そのような広がりを危惧していた頃、2010年に「ビタミンK問題:助産院とホメオパシー」が起きてしまったのでした。


あれから7年ほど過ぎて、冒頭のようにK2シロップを飲ませたくないという方の変化の背景には何があるのでしょうか。
ごくごくたまにしかそういう方がいらっしゃらないので、わかったつもりで過度の一般化して全体像を語ることは避けなければいけませんが、「母乳とフードファデイズム」のあたりかもしれないと感じています。


そしてこちらの記事に書いたように、「母乳だけで授乳をしているところに、糖水であれ、Vk2シロップであれ母乳以外のものを与えるのは、まるで真っ白なキャンパスに何か色を落としてしまったかのように感じてしまいやすい」というあたりかもしれないと。


自分が「正しい」と選択した知識は、どこまで正確なのか。
特に、新生児のリスクを見えなくさせてしまうような「正しさ」が広がってしまうのは何故なのでしょうか。



冒頭のお母さんは、出産前にあっさりとお気持ちが変わり、赤ちゃんにビタミンK2シロップを飲ませて退院されました。
最悪の事態を想像してやきもきしていたスタッフが拍子抜けするほど、あっさりと。





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