事実とは何か 31 <踏み切りを渡りきれない>

先日、踏み切りを渡ろうとした高齢の方と助けようとした男性が亡くなるといういたましい事故がありました。
ちょうどその前日に、あわやと思うような状況を目撃したので、そのニュースは人ごとには思えませんでした。


私が利用している路線はほとんど高架化されていないので、踏み切りが何カ所もあります。
踏み切りを渡らなければ、駅の反対側にいけないようになっています。


ホームの端で電車を待っていた時に、すぐ横の踏み切りを高齢の女性が渡り始めました。
まだその踏み切りも、その前の踏み切りも警報機はなっていませんでした。
ゆっくりしか歩けないようで、踏み切りの半分にさしかかったところで警報機がなり始めました。


私だったら、早足で数秒もあれば渡りきれる踏み切りなのですが、その女性は歩みを早めようとしてかえって足がもつれている様子で、なんとか渡り切った時には遮断機が降りてしまい、線路内に閉じ込められてしまいました。
遮断機は軽く押せばすき間から出られるようになっているのですが、動揺したためか、腕の力がないからか、女性は立ち往生してしまっています。
私はホームから飛び降りるわけにはいかず、やきもきして見守っていたところ、近くを通りかかった男性が気づいて女性を踏み切りの外に誘導してくれたのでした。
その数秒後には電車がホームへ入ってきました。


警報が鳴る前から渡り始めても、閉じ込められる人がいる。
踏み切りの半分ぐらいから警報が鳴っても、渡りきれない人がいる。



その方たちにしてみれば、踏み切りを渡らなければ食糧も生活用品も買えないのですから、毎回、決死の覚悟で踏み切りを渡っていらっしゃるのかもしれません。


問題もなく踏み切りを渡っている人は、聴覚や視覚をフルに使って、あとどれくらいで電車が近づくのかを無意識のうちに判断できているのだと思います。
たとえば、2つぐらい向こうの踏み切りの警報がなり始めたとか、急行が今通過したからあと1分ぐらいで各駅停車の電車がくるだろうとか。
徐々に、そういう機能や判断力が衰えて、渡ることだけで精一杯になってしまう。


今後はもっとそういう方々が増えてくることでしょうし、私自身もいつでもそういう状況になる可能性があります。



今まではこういう事故のニュースをきくと、「警報機がなっていても無理に渡り始めたのかな」と思っていました。


警報機がなり始める前から渡っていても、渡りきれない状況を実際に目の当たりにして、どうしたらこういう事故を減らすことができるのだろうと考えています。




「事実とは何か」まとめはこちら