産科診療所から 18 <「役割拡大」よりも「縮小」を、そして「業務の手順化・標準化」を>

日本国内の「専門看護師」「認定看護師」あるいは「特定行為看護師」(いわゆるナースプラクティショナー)の議論はもうなにがなんだかよくわからないのですが、そういうあらたな資格を勧めたい人たちというのは、どちらかというと点滴の血管確保さえ医師がしているような大学病院とか規模の大きい施設の勤務経験しかない人たちではないかと思っています。


普通の総合病院とか診療所になると、そういう議論はあまり役に立たなくて、それよりは「私たちはどうしたらその医療行為を安全に遂行できるのか教えて欲しい」というあたりではないでしょうか。


医療の急激な進歩で、医師が新たな治療方法や医療機器を導入すれば、それに追いついていかなければなりません。
私が看護職になって三十数年の間に、新卒の頃には考えもしなかったほどの医療処置の介助ができることが求められています。


「専門看護師」「認定看護師」「特定行為看護師」あるいは自律した助産師といった言葉を広げようとする動きには、よく看護職の役割拡大という表現が使われます。


むしろ役割が拡大しすぎて青色吐息なのが、多くの看護職なのではないかと私は周囲を見ていても思います。
さらに「看護師」の資格だけで全ての診療科目にオールマイティを求められているのが日本の現状なので、これだけ各科の医療が細分化されている実情にも全く合っていないと思います。



イギリスのように、看護師全員が専門看護師として資格登録していくほうが理にかなっていると思うのですけれど。



<「産科麻酔」の看護とは>



前回の記事「産科麻酔の安全な体制」とありましたが、総合病院の産科・小児科病棟で、そこそこリスクのある母児への対応も経験してから産科診療所に移った私が一番とまどったのが、産科診療所での「産科麻酔」でした



私が勤務していた総合病院では、予定帝王切開では腰椎麻酔や硬膜外麻酔も麻酔科医が立ち会って、手術中の全身管理と記録は麻酔科医の先生がしてくださっていましたが、夜間などの緊急帝王切開では、手術室の看護師が麻酔科医の替わりに全身の観察、点滴量の調節から記録までしていました。


勤務している産科診療所には麻酔科医がいないので、術中管理は看護職が担うことになります。


時には医師の指示のもとに、吸入麻酔器の操作も求められます。
手術室看護さえ経験していないのに、いきなり麻酔の看護、というよりも麻酔科医のしていたことが看護業務になっているのです。


産科診療所に移った当時は、あわてて麻酔の看護についての本を探しまわりました。
でも求めているような内容、つまり「手術室看護以上、麻酔科医の仕事未満」の本がなくて途方にくれました。


そりゃあそうですよね。
こうした医師の業務に近いことまで看護職が実際に実施している現実があるのに、看護師の内診を問題にする割には助産師には会陰縫合までさせろという矛盾だらけの雰囲気の中で、現実の問題は何か見失っているのではないかという時代でしたから。


最近はだいぶ産科麻酔の本が増えたので勉強になりますが、「これは私たち看護の仕事でよいのか」「医師がするのが理想だけれど、現実には私たちがやらざるを得ないのか」の間で揺れています。


せめて、他の施設のヒヤリハットから同じ過ちを繰り返さないように、全国の各施設の試行錯誤が体系化されて、手順が標準化されていくようなシステムが何よりも欲しいと思っています。





「産科診療所から」まとめはこちら
「無痛分娩についての記事」まとめはこちら