観察する 40 <まだわかっていないことを知る>

葛西臨海水族園に行くと飽きもせずにながめていたマンボウですが、昨年末か今年の初め頃だったでしょうか、姿を見なくなりました。
職員の方に尋ねるのもなんだか憚られて、ひっそりとした水槽の前を寂しく通り過ぎています。
最近、その水槽ではウミガメがゆったりと泳いでいます。


マンボウも関心が出てネットで検索してみましたが、名前の由来などがあるくらいで、ハシビロコウの本がほとんど無いようにマンボウの本も出されていないようでした。


そのマンボウの一般向けの本が初めて出版されることを知り、とても楽しみにしていました。
マンボウのひみつ」(澤井悦郎氏、岩波ジュニア新書、2017年8月)です。
「はじめに」にも、マンボウを専門に研究したこの著者でさえマンボウの本を見たことがなかったことが書かれています。
その理由に、こんなこともあるようです。

 マンボウはインターネット上でもたびたび話題に上がる人気の高い魚です。しかし、マンボウは巨体になるため研究が難しく、その生涯はいまだに多くの謎に包まれています。私はその謎を一つでも多く解明するために、特定の分野にとらわれず、形態、分類、生態、民俗など幅広い視点からマンボウを自由に研究してきました。


「その生涯はいまだに多くの謎に包まれています」
一般向けの本はなかったとはいえ、たくさんの研究者の方々が調査研究されていることでしょう。



水族園や動物園、あるいは植物園でじっとひとつの生物をながめていると、次々と小学生のような疑問が沸いてきます。
「これは何?」「あれはどうして?」と。
家に帰ってから、まずネットで検索し、情報が見つからなければ大きな書店の生物コーナーを巡るのですが、答えの見つかる書籍になかなか出会わないことがほとんどです。


以前は、求めているような答えは、大学とか特殊な研究機関でしか知ることができないのだろうと思っていました。
ところが、何度も「観察して疑問に思ったことを調べる」を繰り返しているうちに、数少ない一般向けの本の中にも、「まだわかっていないことが多い」とさらりと書かれている文章が目に入るようになりました。


この本の中でも、マンボウは仔魚(しぎょ)から成魚への成長過程をはじめ、生活史があまりわかっていないことが書かれています。
特に印象的だったのは、以下の部分でした。

 魚の胃と腸は合わせて「消化管」と言います。魚の中には胃のない魚(無胃魚)もいます。胃のある魚は通常、腸よりも胃の部分が大きく太いので、胃と腸の境界が明瞭です。
 しかし、マンボウは胃に膨張嚢がない(胃と腸が似た大きさ)とされているため、胃と腸が非常に不明瞭です。マンボウには胃はないと考える研究者もいて、私もいまだによくわからないので、通常は「消化管」として扱っています。


「胃と腸が不明瞭」「胃はないと考える研究者もいる」
マンボウの「胃」ひとつとってもまだわかっていない。


そう、「どこまでわかっているのか」あるいは「わからないことが何なのか」をわかっている、それが専門的な視点といえるのかもしれません。
このような本に出会うたびに、たんに知識ではなく、「それを知りたかった」と思う点はそこなのだと。


だって、ヒトの新生児でさえ、あの劇的に変化する数日間がまだまだわかっていないことだらけなのですものね。




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