事実とは何か 43 <マンボウの都市伝説>

昨日の記事で紹介した「マンボウのひみつ」(澤井悦郎氏、岩波ジュニア新書、2017年8月)の最後の方の、「死因にまつわる都市伝説」も興味深く読みました。


私もマンボウについてネットで検索すると、いろいろと「へえーっ」と思う話がありましたが、中には少し現実離れしているようにも感じた話もありました。
たとえば、「皮膚がとても弱い」という内容をどこかで読みました。
水槽で実際にマンボウを見ると、鱗もないので見ている分には薄く弱い皮膚のようにも見えるので、さもありなんと思わせる話です。


ただ、なんとなく「それは本当なのかな」と直感的に疑ったのですが、それについてもこの本の中で説明がありました。

マンボウの皮膚は「ライフル銃で撃っても弾は貫通せず、銛でついても通らなかった」という話がある一方で、「手で触ると手の跡がつくぐらい皮膚が弱い」という説もあります。どちらが正しいのでしょうか?


ライフル銃や銛の話は信憑性のある話のようですが、「皮膚が弱い」については「魚は変温動物なので、高温である人の手で触ると火傷して手の跡が残る」という俗説から来ているのではないかとして、以下のように書かれています。

マンボウの小型個体はたしかに皮膚がうすいので手で触ると温度的な影響があるかもしれませんが、大型個体は弾丸が通らないくらい皮膚が厚くなるので、触っても全然問題ないと思います。

やはり、実際に観察し触れている人の話は大事だと思いました。


それ以外にも、マンボウの不思議な外見と、そのわりには人間とはあまり関わりが少ない魚で、さらに生活史がほとんどわかっていないが故の言い伝えや迷信があるようです。
そのひとつひとつの説明を読むと納得できるのですが、やはり「未知の事柄への興奮」とでも「未知の事柄への妄想」とでもいうのでしょうか。
迷信っぽいことのほうに人は惹かれやすく、そういう話のほうが生き残るのかもしれません。



<ネット上での「マンボウの死因説」の広がり>


著者は、マンボウを大学院で研究し始めた2007年頃には見かけることの無かった「マンボウは死にやすい生物」というネット上の話がどこから始まったのかについて調べたことを書いてあります。


確かに、私が読んだネット上の情報の中にも、「デリケートで少しの衝撃でも死ぬことがある」ような話がありました。
そのひとつに、Wikipediaに「マンボウはこの時、着水の衝撃で死に至る」という記述が2010年5月に追加され、2013年1月に削除されるまで掲載されたことが始まりのようです。
そのあたりから、「寄生虫を振り払うためにジャンプ後に着水した衝撃で死にいたる」という都市伝説が生まれ広がり始めたとあり、実際に調査していてもマンボウはジャンプをするけれども死なないので、これはデマであることが書かれています。


その後、2013年のtweetから「マンボウは死にやすい」という話が広がり、さらにテレビでもその話が広がったことが書かれていました。

私は何度かテレビ番組作りに協力したことがあるのですが、たいていの場合、依頼されたときにはすでにネット上の情報に基づいて番組内容をつくっているので、私がいくら『都市伝説に基づいてマンボウが死にやすい生物というのは止めてほしい』と言ったところで、あまり意味はありませんでした。


マンボウが死にやすい」というネット上の都市伝説が終息したのは、何故か。
これは本を読んでのお楽しみに、ということにしておきましょう。




「事実とは何か」まとめはこちら