新生児のあれこれ 55 <髪の毛>

久しぶりの「新生児のあれこれ」です。
タイトルに「髪の毛」とつければ、何の話題かピンとくることでしょう。


buzzfeedの「茶髪で生まれたら普通じゃないの?髪染めを教養された女子高生の想い」という記事を読みました。
その中の担任教師の「どこの血が入っていようが、なに人であろうが関係ない。これは市の決まり。普通は黒髪で生まれてくる」の部分に、ああ、先生惜しいなあ、新生児を知らないのだろうなと思ったのでした。


「どこの血が入っていようが、なに人であろうが関係ない。これは市の決まり」に関しては、イデオロギーや、正義感とか秩序を守るとか職務を全うするといったやっかいな気持ちの問題があることでしょうからややこしいことでしょう。


ただ、「普通は黒髪で生まれてくる」は、毎日ヒトが生まれる瞬間に立ち会っている私たちにちょっと確認してくれれば、「思いこみ」であることがわかったのに。


何を持って「日本人」と定義するのか私もよくわかりませんが、とりあえず両親や祖父母、曾祖父母あたりまでさかのぼっても金髪や茶髪だった「外国人」がいないような人でも、出生時に金髪から茶髪のことが時々あります。


私が助産師になった30年ほど前は、まだ「茶髪=不良」のイメージで、白髪染めを除いては髪を染めること自体が、何か反社会的な意識を持った人のように受け止められていた時代だったと記憶しています。
ピアスに対して、「親からもらった体に穴をあけるなんて」とか「問題行動」と受け止められるのと同じように。


ですから、当時、ちょっと茶髪っぽい髪の毛の赤ちゃんが生まれると、ご両親がおろおろして「どうしてこんな色になっちゃったんですか?」「大丈夫ですか?」と心配される方がほとんどでした。


ところが、その後急速に日本の社会は世代に関係なく、髪を染めることが広がり始めました。
私は「カラスの濡れ羽色」のような黒さで、ちょっと前まではうらやましがられる色でしたが、美容室に行くたびに「黒いと重たく見えるから茶色に染めた方がいいわよ」と勧められて、時代の変化に戸惑いました。


2000年代ぐらいになると、茶髪で生まれて来たわが子を見て「あ、茶髪だ!」と嬉しそうにするご両親が出現し始めました。
「染めなくていいからうらやましいな」と。


その方達も、お子さんが通学するようになって同じように校則に悩んでいらっしゃるのでしょうか。



30年前から「なぜ茶髪の新生児がいるのか」「その割合はどのくらいか」「成長するとどのように色が変化するのか」がいつも気になっているのですが、案外、周産期や新生児の専門書には「新生児の毛髪」について書かれたものがありません。


ただ、「生まれながらに茶髪の新生児がいる」ことは事実ですから、「普通は黒髪で生まれてくる」は不正確ですね。
まあ、何を持って「普通」とするのか、ごく少数の人を「普通ではない」とする気持ちの問題があるでしょうから。


でも、産科に勤務する私たちも、もしもう少し新生児のありのままを観察し、全国的なデーターを蓄積するシステムがあれば、今頃はもう少し「生まれながらに茶髪の人がどれくらいいて、成長しても茶髪のままのことがある」ことを明確に示してあげられたのではないかと、心が痛みます。
もともと茶髪なのが自然だった子どもに、数日おきに染めるという不自然さを強要するなんともシュールな社会になってしまったことに。




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