事実とは何か 47 <重大インシデント>

数日前、新幹線の台車に亀裂が入ったまま走行していた件の続報ニュースを見て、ちょっとびっくりしました。
重大インシデント」で、JR側が「深くお詫びする」と謝罪会見をしていたからです。


最近のリスクマネージメントについて私の知識のアップデートが追いついていなくて、「重大インシデント」の意味が変わったのかな、それとも医療と運輸関係ではインシデントのレベル段階が異なるのかなと、一瞬、戸惑いました。


インシデントを読むと、微妙に「Medical Incident」との差があるようです。

かつては事故(アクシデント)が発生する一歩手前の状況がインシデントと呼ばれていたのだが、事故などが発生した跡でもほっておけば被害は拡大していくため、その意味ではその事故自体がまた他の事故や危機の発生する一歩手前と考えられるという観点から目に見える事故が発生する一歩手前の状況からすでに目に見える事故や災害が発生してしまった状況までをも含めてインシデントと呼ばれるようになっている

したがって、突発的な出来事で、迅速な対応が要求され、即座に対応しなければ被害が広がっていくものは全てインシデントという言葉で含有される。インシデントには大小様々、種類様々なものがあり、決して危機とか大災害だけを指す物ではなく、また、事故が起きる一歩手前の状況のみをインシデントと呼ぶわけでもない

ただし、「各分野の用法」を読むと、「Medical Incident」では、私の理解していた内容が書かれています。

Medical Incidentは、医療現場において、誤った医療行為などが患者に実施される前に発見できた事例、または誤った医療行為などが実施されたが結果として患者に影響を及ぼさずに済んだ事例をいう。一歩間違えれば重大事故なるが、事故にならずに済んだ事例である。業務上のこのような事例の発見はヒヤリ・ハットと呼ばれ、これらの事例を集計することによって、インシデント・医療ミス・医療事故の発生の予防に役立てている。


あの新幹線の件では重大な事故には至らなかったのに、なぜ「重大インシデント」となったのかについて、私が感じた微妙なニュアンスの違いは、このあたりの分野による言葉の使い方からきていたようです。


ただ、確かに列車遅延で何万人かの乗客に影響を与えたことに対して謝罪会見があるのは日本の風潮としてはしかたがないとしても、未然に事故を防いだ状況の「重大インシデントと認定」されたことまで謝罪しなければいけないのかなと釈然としないものが残りました。


しかも重大インシデントとしてこれから調査が始まるというのに、その報告を待たずに、「臭いや異音に気づいた乗務員」と「その報告を無視した指令部」のような「事実」がどんどんと報道されてしまっています。


確かに臭いや異音で異常を発見して未然に事故を防いだこともすごいと思いますし、でもそういう人間の感覚に頼るしか無い部分をどうするかという点が、今後の事故再発予防へと生かされていくのではないかと感じました。
ですから、現場の人たちの判断を後出しジャンケンと懲罰感情であれこれ言うことのほうが、リスクマネージメントには障害になるのではないかと、医療現場と重ね合わせながら、胃が痛くなる思いでこのニュースを聞いたのでした。


そういえば、この「事実とは何か」の最初の記事も、あの新幹線の事件でした。



もう少し、続きます。



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