散歩をする 51 <殿ヶ谷戸庭園からハケ下を歩く>

お鷹の道からハケ下を道なりに出ると、あの湧水が野川と合流する場所にでます。
そこからまた急な上り坂を歩き国分寺駅に出ると、駅前に殿ヶ谷戸庭園があります。


鬱蒼とした緑が中央線の車窓からも見えるので、20年数年前からそこに庭園があることを知っていたのですが、当時は大名とか名家の庭園はなんだか栄華や権力の象徴のように私の目には映り、心が惹かれなかったのでした。
1980年代半ばに経験した、独裁政権下の貧困と重ね合わせていました。


さて、庭園の入り口は平坦なのですが、少し入ると庭園の中に急な坂道があちこちにあり、かなりの高低差があります。
パンフレットに「武蔵野段丘の南縁の『国分寺崖線』と呼ぶ段丘崖とその下端部付近の礫層から浸出する湧水を利用し、雑木林の風致を生かして作られた近代の別荘庭園です」とあるように、国分寺崖線を生かして作られているのでした。
庭園の東側に次郎弁天池があり、崖のあちこちからの湧水がその池に流れ込んでいます。


訪ねたのは12月初旬で、紅葉が深まる庭園の中で湧水の音を聞いていると、「幽玄」という言葉がふと浮かんできました。


正義感や好き嫌いでの思い込みが、こんなに素晴らしい場所があることを見えなくさせてしまっていたのだと、またひとつ自分の人生の失敗学が増えました。


西国分寺のお鷹の道とこの庭園だけでも、国分寺崖線がうみだす水の豊かさを実感したのですが、それはこの日の散歩の序盤に過ぎなかったのでした。


<新次郎池>


殿ヶ谷戸庭園を出て武蔵小金井方面へ坂道を下って行き、そのハケに沿って歩くと、東京経済大学の裏に出ます。
中央線沿いにその大学の敷地があるので毎日のように見ていたのですが、平坦なキャンパスだと思っていました。
ところが、「東京湧水 せせらぎ散歩」を読んで、初めてその敷地内にハケがあり、湧水による池があることを知りました。


「東京湧水 せせらぎ散歩」によると、新次郎池は元学長のお名前からつけられたそうで、「さほど広くない水面の周囲には4、5カ所の湧き口があり、時期によってはかなりの水量が注ぐ。池を出た水は構内のすぐ下の野川に鞍尾根橋のところで落ち込む」と書かれています。


キャンパス内なのですが、その池の付近は自由に出入りできるように配慮されています。
予想以上に豊かな水が湧き出ていて、子どもの頃に秘密基地にして遊んでいた泉を思い出してしんみりしていると、「マムシに注意」の立て看板に気づきました。


ぎゃ〜っと池から離れました。
そうですよね。水が豊かなところだから蛇も多いことでしょう。冬とはいえ、冬眠していない羆のような蛇もいるかもしれないですしね。


貫井神社>


新次郎池からまたハケに沿って10数分ぐらい武蔵小金井方面に向かって歩くと、貫井神社があります。
まだ鳥居が見える前から、湧水の水音が聞こえ始めました。

地元の鎮守であるこの神社の創建は天正15年(1590)。水神である弁財天を祀ったのが始まりで貫井弁財天とも呼ばれる。それを物語るように、涸れることのない湧水が本殿西側の崖裾の岩間に湧き出し池を満たしている。昔はさらに豊かな水量を誇り、それを利用して大正12年に水泳プールがつくられたほどで、神社前に記念碑が建っている。一説に小金井の地名は「黄金井」、つまり「黄金に値する豊富な水が湧く」ことからきているとされる。
(「東京湧水 せせらぎ散歩」より)


現在でも日本でプールがある小中学校は7割程度ですが、一世紀前であればこうした天然のプールでさえ子どもたちには夢のような場所だったのかもしれませんね。


いやあ、それにしてもハケの上に走っている中央線沿線からは想像もつかない、水が豊富なハケの下です。
でも、これでもかというほど湧水を見て歩いても、まだこの日の散歩の中盤に過ぎなかったのでした。
ということで、終盤に続きます。




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