観察する 46 <ハシビロコウの体調管理>

上野動物園で過ごす時間のもうひとつの目的は、もちろんハシビロコウです。


先日、上野に行って間もなく、ハシビロコウが亡くなったニュースを知りました。
「シュシュ・ルダンガ」の檻には、「体調管理のため展示を中止しています」の表示がありましたが、それからまもなく亡くなったようです。


動物園では「体調管理のため展示中止」の表示はよくあることですから、また元気な姿をみることができると思っていたのでした。


東京ズーネットの3月2日付けのニュースは以下の通りです。

 上野動物園ハシビロコウのオス「シュシュ・ルダンガ」が昨日2018年3月1日、残念ながら死亡しました。死因は動脈硬化感染症による心不全です。
 シュシュ・ルダンガは2007年6月21日、ドイツのフォーゲルパークから来園しました。年齢は23歳以上です。
 2018年1月下旬から右脚裏に出血が見られ、バックヤードで治療を行っていましたが、2月中旬に関節部に炎症が生じ、歩行時に脚を引きずるようになりました。元気を取り戻したようすも一時的に見られましたが、3月1日午後に脱力が見られ、17時45分に死亡を確認しました。解剖の結果、重度の動脈硬化が見られ、感染症を併発したため心不全を発症したものと思われます。今後、病理組織検査などを実施し、さらに詳細な死因について検討をおこないます。
 シュシュ・ルダンガは野生由来の個体です。上野動物園のメスたちと同居を試みてきましたが、繁殖にはいたりませんでした。他の個体に比べて人慣れない性格で、とくに女性に向かってくることもある気の強い一面もありました。


いつも会いに行っていたシュシュ・ルダンガが亡くなったことは心にポッカリと穴が空いた気持ちですが、このニュースを読んで大事に観察されていたことに頭が下がる想いでした。


<動物の変調に気づく>


すごいなと思ったのが、「右脚裏に出血」「歩行時に脚を引ずる」「元気を取り戻したようす」「脱力が見られ」「他の個体に比べて人慣れない性格」「気の強い一面」といった表現の箇所です。


何度も上野動物園に通ってハシビロコウを見ているのですが、いまだに私には5羽の個体の違いさえよく見分けられませんでした。微妙に、クチバシの模様や冠羽の形が異なることはわかるのですが、別々の檻に入っているから違う個体であると認識できているレベルだと、先日も感じたばかりでした。


また、最初の頃に見たハシビロコウは立ってジッとしていることが多かったので、ある時、地面に座り込んでいる姿をみただけで「大丈夫だろうか、元気がないのではないか」と心配になったくらいハシビロコウ生活史を知らなさすぎました。


そのうちに、動かない理由は、「狩りは一瞬ですが、消化に時間がかかり、しかも消化するために1日に消費するエネルギーの30%を費やしています」ということを知り、ハシビロコウの元気さというのは活発に動いているかどうかではない別の状態を指していることが少し理解できたのでした。


ハシビロコウの前でずっと定点観測をしてみたい気持ちもあるのですが、檻の前でずっと見つめている人間(私)の存在はハシビロコウのストレスになるのではないかというためらいがあって、いつもご挨拶程度にちょっと遠くから見ていました。


動物園のスタッフの方々は、脚の出血に気づくほど観察をされていたのですね。
あの細い枯れ枝のような脚は、私にはどこに血管があるのかさえわからないような外見なのですが。
あるいは元気があるかないか、どんな観察から判断することができたのでしょうか。
そしてハシビロコウの脱力とはどんな状態で、そこから臨終の気配を感じ取ったのでしょうか。


日々、人間の体調を観察し人の看取りもしてきましたが、多種多様な動物のそれぞれの変調を観察するというのは、とても専門性が高い技術であるとこのニュースを読んで感じました。




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