散歩をする 63 <盧花恒春園>

2〜3日に1度は水に入らないと気が済まない河童も、たまに泳ぎに行く気にならないこともあります。
せっかくの休日で時間はあるのにプールに行く気にあまりならず、何かをしたいという気分もなく、うだうだとパソコンをながめているうちに昼過ぎになってしまうことが。
さらに散歩もどうしようかなあと思うようなぐずついた天気となると、「なんて優柔不断なダメな人なのだ」と自分を責めたくなるほど、何も予定がたちません。


そんな時には、ぼーっと地図を眺めます。
今までちょっと気になっていたけれどまだ行ったことがない場所が見えて来て、やる気が出てきます。
近くの公園とか、思わぬ発見があります。


1ヶ月ほど前も、そんな気が乗らない中、地図を眺めていて決まったのが盧花恒春園でした。


この盧花恒春園については、思い返すと40年来のさまざまな記憶があります。
ところが、一度も中に入ったことがなかったのでした。


私が中学生から高校生の頃に、年に何度か、このそばを通っていました。
当時住んでいたところから坐禅の修行に行く父と一緒に車でこの前を通り、母と私は途中で降りて京王線で都心に出て買物をし、そして夕方に父と合流して家路に着く時にまた盧花恒春園の前を通過していました。


今、思い返すと環八のそのあたりには、まだ両側に畑も残っていたけれど、都内でしか見かけることのない8階建てのマンションなどがボチボチと建ち始めていて、それをみると「東京に来たのだ」と感じていました。
1970年代でした。


そのマンションの手前にあった鬱蒼とした森はなんとなく記憶にあるのですが、それが徳富蘆花が住んでいた場所を公園にしたことを知ったのが、1980年代後半になってからでした。
当時、世田谷に住んでいて、環八を自転車で頻繁に走っていました。
その時に、広い公園であることを知ったのですが、まだ公園で過ごすという習慣がなかったので素通りしていました。


80年代から90年代、盧花恒春園の周辺にはまだたくさんの農地が残っていて、野菜の無人販売のスタンドを時々利用していました。
環八沿いから道を一本入ると、広い農地と大きな農家の屋敷がある風景のギャップは印象的で、「豪農の世田谷」というイメージが私の中で作られました。
その頃を境に、農地がお洒落なマンションに変わり、風景も街の雰囲気も変化していった記憶があります。


そばを素通りしているだけでその盧花恒春園に入ったことがなかったと、散歩コースが決まったのでした。


八幡山駅から盧花恒春園へ>


地図には環八に沿って「青い水路」が描かれていますが、これは仙川の人工河川と同じく、水がない水路であることを80年代から知っていました。
環八沿いの歩道は自転車で通るにはとても狭いのですが、その横に広い水の流れていない用水路がそのままになっていて、いつも「早く埋め立てて、ゆったりとした歩道にしてくれたらいいのに」と思っていました。
今なら反対に、「すぐに暗渠にしないで用水路は水を流してとっておいて欲しい」と思うので、まあ勝手なものですけれど。


きっとすでに暗渠になっていると思いつつ、その用水路を確認したくなり、八幡山からのスタートに決めました。
途中の団地の前の一部は暗渠化されて遊歩道になっていましたが、それ以外はほとんど30年前と変わらずに流路が残されたままでした。


環八を自転車で走ると、高低差がかなりあることがわかります。下り坂では漕がなくても勝手に自転車はけっこうなスピードで走っていきますし、そのあとの上り坂は心臓破りの坂になります。
当時はそのアップダウンの激しさしか見えていなかったのですが、久しぶりに歩いてみていろいろな地形が見えてきました。


環八に対して東側は、「八幡山」の名前の通り小高くなっています。あの水のない水路はその裾野に沿って作られていたことがわかります。
そして西側の盧花恒春園あたりも小高くなっていて、公園の南側の湾曲した部分に水路か川があったのだろうと想像できる地形でした。
徳富蘆花が、「青雲購読の田園生活」をおくるために必要な水を得ていた流れがあったのでしょう。
そして南側はさらに瀬田交差点方面に向けてまた丘陵地帯になっていきます。
それが、武蔵野台地の南端、国分寺崖線の南端部だという地形が少し見えてきました。


武蔵野台地の上の複雑な地形と川が、世田谷の農業とも深い関係があったことでしょう。
40年来、気になっていた場所をこの目で確認できました。



ちょうど散歩の直前に公園のつぶやきで、「盧花夫妻の墓近くにあったシュンランが忽然と消えた」という悲しいつぶやきを目にしました。
広大な園内はよく手入れがされていましたから、関係者の皆様のお気持ちはいかばかりかと、ちょっと悲しい散歩になりました。


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