新生児のあれこれ 56 <新生児という言葉が使われ始めたのはいつ頃か>

Y-Sanaさんからいただいたコメントに、「もし、観察に基づく新生児の生活史という視点を積み重ねていたら、『母乳育児』という言葉ではなく、『新生児の胎外生活に適応する期間の授乳方法』という(本質的な)表現になると思う」と答えました。


そう書きつつ、きれいにまとめる(拙速に結論づける)のはよくないなと思い、こまごまと私自身がまだわかっていない部分、考え続けなければいけない課題のようなものがぼんやりと見えてきました。
Y-Sanaさんのコメントへの返事のような記事が、しばらく不定期になるかもしれませんが続きます。


周産期医療に携わっていながら、そして「新生児のあれこれ」を書きながら、ずっと気になっていたことがあります。
「新生児という言葉はいつごろ日本で使われるようになったのだろう」という点です。


もしかすると、新生児科や小児科の先生方は常識としてご存知かもしれません。
私が見落としているのかもしれませんが、周産期医学や新生児学関連の書籍の中でその答えを見つけられずにいます。


定義はWikipedia赤ちゃんに書かれているように、「出生後28日未満の乳児」です。
おそらく一般的には、細かい日齢はわからなくても「生後1ヶ月前後」というニュアンスではないかと思います。


なぜ「出生後28日未満」かというと、出生当日を0と数えて4週間だということは医療関係者であれば基本的な知識として学びます。
ところが、なぜ28日未満あるいはおおざっぱでも1ヶ月前後の赤ちゃんは新生児として呼ばれ区別されるようになったのか、それはいつごろからなのかという歴史については探しても目にしません。
授業でさらっと聞いたかもしれないのですが、当時は知識を覚えるだけで一杯で歴史にまでは関心もありませんでした


<新生児医療に関する記述>


Wikipedia新生児学の「歴史」に「日本での新生児医療は1956年の神戸パルモア病院にて当時京都府医大の小児科医三宅廉により始められた」とあります。


実際には、日本に新生児医療が広がるのには温度差と時間差があったのかもしれません。
たとえば、「シリーズ生命倫理学7 周産期・新生児・小児医療」(シリーズ生命倫理編集委員会編、平成24年12月、丸善出版)の「新生児医療の倫理的特徴」(p.3)にこう書かれています。

新生児はかつて新産児と呼ばれ、正常新生児は産科の領域で、病気になると小児科が診に行くという両医療分野の狭間にあった。1970年頃から、成人が治療を受けて助かるなら新生児も一人の人間として助けるべきである。という理念で新生児集中治療室(NICU)ができた。


NICUが1970年に出来たといっても、私が新卒看護師だった1980年代初めには成人の集中治療室(ICU)のある病院さえとても限られていました。
こちらの記事に書いたように、1980年代初頭には先進的な病院でも限られていた人工呼吸器を始めとした医療機器が一般病院に急速に広がったのが1980年代半ばで、成人の救急医療が劇的に進歩した印象です。


「新生児医療」が広がったのは、ようやく1980年代後半に入ってからという記憶があるのですが、このあたりはどうなのでしょうか。


ところで、医学的には新産児と呼ばれていた時代があったことを、この本で初めて知りました。
新産児から新生児へと呼び名が変わったのは、いつ頃の時代で、何がきっかけだったのか気になりますね。


<「新生児」という言葉が広がったのはいつごろか?>


「新生児」は英語の「newbornbaby」を直訳して日本語になったものだろうということは見当がつきます。


私が看護師になった1980年代でもまだ医師はドイツ語でカルテを書いたり、日常的に使う医療や看護用語にもドイツ語が使われていて、日本の医療はドイツの影響を受けていたことがわかりました。
たとえば産科では、お産の「ゲブルト」や逆子の「ベッケン」という言葉が今でも通用しています。


「赤ちゃん」のドイツ語は「Neugeborenes」のようなので、もしかしたら、「新産児」はドイツ語から日本語になったものかもしれませんね。


冒頭のWikipediaでは、「新生児」が母子保健法の中で規定されていると書かれていますが、1965年(昭和40年)より前の時代には使われていたのでしょうか。
その時代はどうなのだろうと、1960年代初頭の私の母子手帳をひっぱり出してみました。


「新生児についての注意」というページがあって、こんな説明から始まっていました。

生まれてから約1箇月の新生児期は、赤ちゃんが母親のお腹から出て、新しい生活に慣れて行く時期です。この時期は一生のうちで一番弱い時期ですから、十分に注意いたしましょう。

それまでは漠然と「赤ちゃん」「嬰児」ととらえられていたものが、最初の1ヶ月が「一生のうちで一番弱い時期です」と明確にとらえられるようになったのも、生まれてからの赤ちゃんを観察し続け、経験のなかにひそむ理論をたぐりとって法則化するという科学的な視点がとりいれられたからこそともいえるかもしれません。


「新生児」という言葉と概念が生み出され、広がり始めたのはいつごろだったのでしょうか。




Y-Sanaさんからいただいたコメントから考えた記事のまとめです。

新生児のあれこれ 57 <新生児とはどういう存在なのか>
記録のあれこれ 16 <新生児についての記録>
記録のあれこれ 17 <育児記録と授乳記録>
記録のあれこれ 18 <新生児の生活のために何を記録するのか>
母乳育児という言葉を問い直す 28 <「人一倍授乳に熱心な人が繰り返し出現する>
行間を読む 72 < 自然は「真や善の『拠り所』」>
記録のあれこれ 19 <プロセスレコード>


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