気持ちの問題  52 <作られていく興奮>

昨日の夕方、辰巳に向かう有楽町線はとても混んでいました。豊洲の街ができてからはその区間も混雑するようになったのですが、昨日は多くの人が辰巳で下車し、私と同じ方向へと歩いています。
トップスイマーのアップの様子を見るために、試合開始1時間前に行ったのですが、今までこんなにたくさんの人がいたのは、北島康介選手が出場する日と、土日の試合、あるいはインカレぐらいの記憶です。
秋に東京で開催されているワールドカップになると、平日の夜のためか、世界のすごい選手の泳ぎを見ることができるのにガラガラです。


きっと夏休みをとって、普段は競泳大会を見にいけない人たちがこの日を待ち望んでいたのだろうと想像しました。


ということで、昨日、パンパシフィック水泳大会が始まりました。
この日のために発売開始と同時にチケットを買い、仕事も頑張ってきたのですからね!


なんといっても楽しみにしていたのがアメリカのケイト・レデッキー選手の泳ぎを目の前で見ることができることです。それ以外にも、オーストラリアのケイト・キャンベル選手やエマ・マッキーオン選手などワールドカップで活躍されている選手や、世界記録を持った海外選手が来日します。


ただ、パンパシフィックは地域限定の国際大会ですから、どちらかというと世界水泳やオリンピックの合間の調整のための練習試合ぐらいかと思っていました。
エントリーシートを見ても、それぞれの国内選手権の上位に入った若い選手が海外試合の経験を積む場なのではないかと思えます。
ですから、私にとって初めて会場で観戦するパンパシ水泳ですが、ちょっと気軽に構えていました。


<圧倒される雰囲気>


会場に入ると、まず「気合の入った」内装にびっくりしました。


そして、それぞれの観客席に何かが置いてあります。検索して名前を初めて知ったのですが、ステイックバルーンとかチアステイックというのですね。
ちょっと嫌な予感を感じました。「ニッポン・チャチャチャ」をさせられるのかな、と。
今までの競泳国際大会でも、わずかな人たちが持っているのを見ましたが、配布されているわけではありませんでした。


最初のうちは気後れするのか、周囲の人たちもバルーンをふくらませる人はいなかったのですが、誰かがふくらませると、何となく「私も」という感じになるのでしょうか。
気づいたら、ほとんどの人がステイックバルーンを膨らませて手に持っていました。
そして、開会式前には練習まであったのでした。
私は一人でいられて、プールの静寂さが好きなので、あのステイックバルーンはプールサイドには似合わないなと、最後まで使いませんでしたが。ええ、あまのじゃくですからね。


国内大会でも、その日の会場の雰囲気で選手の気持ちに影響があるのは感じていました。
それは、満員になるほどの観客だとやはり力の入り方が大きいのかもしれませんし、でも、観客が少なくても拍手が送られると後押しされているように見えます。


でも、今回、あのステイックバルーンを初めて間近で経験して、ちょっと怖いなと感じました。
拍手だと、ほんと試合が終わる頃には手のひらも腕も痛くなったりします。
それほど、こちらの感動を拍手で伝えるにはこちらもエネルギーが必要です。


ところが、周囲を見渡していると、ステイックバルーンを鳴らしているつもりでなくても、手持ち無沙汰に2本を打ち合わせているだけでも結構な音になります。
それを興奮して打ち鳴らすとすごい音になり、さらにプール内のエコーがかかって頭が痛くなるほどの音量になります。
今日からは耳栓を持って行こうかと思うほどです。
Wikipediaによるとすでにゴミの問題もあるようですし、ステイックバルーンで盛り上げようという風潮は早晩見直されるのではないかとは思いますが。


周囲の人が鳴らしていることに、無意識のうちに同調し、そして全体がすごい音になる。
そのあたりが、なんだか一番怖いなと感じたのでした。
「オリンピック前哨戦」「国別対抗」といった言葉とともに、「ニッポン・チャチャチャ」になっていく昂揚感に抗えないような雰囲気に。


気軽に、日本や海外選手の泳ぎを見に行きたかっただけなのですけれどね。



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