水のあれこれ 85 <上げるより下げる方が大変>

災害レベルの暑さが続く今年の夏ですが、32〜33度ぐらいでは驚かなくなったので、慣れたのかそれとも感覚が麻痺したのでしょうか。
自宅ではほぼ冷房を切らすことなく使っているので、7月分の使用料がどうなっているのかとても不安でしたが、何と、昨年とほぼ同じ使用電気量と料金でした。
やはり新しいエアコンの節電効果でしょうか。


ところで、雨が降ろうが、槍が降ろうがそして大雪だろうが泳ぎに行く私ですが、さすがにこの暑さだと「行きたい」と思う気持ちはあっても泳ぐ回数が減っています。
かっぱは猛暑にも弱いのかもしれません。


そんな災害レベルの暑さなのに、7月に入るとテレビでは屋外プールや海で遊ぶ人たちの映像を流していました。季節のお約束なのでしょうね。
あの屋外プールでは、直射日光だけでなく水温も上がって熱中症の危険性があるのではないかと心配していたのですが、あるニュース番組で「水温が32度以上になると体を冷却できなくなるので熱中症の危険性が高まる」と伝えていました。
こういう情報も、文字スーパーで周知した方がよい情報ではないかと思いますね。


私が泳ぐ屋内プールでは、屋外プールと違って室温も水温も一定に管理されているのですが、プールによって微妙に水温が異なります。
がんがんと泳ぐ人が多い50mプールだと30度以下で、最初に入るときはかなりひやりとしますが、泳ぎだすとちょうど良い水温に感じます。


25mプールだと30.5度前後でしょうか。ゆっくり泳ぐ人や歩く人が増えたので、体が冷えない水温も求められるようになったのかもしれません。
そこそこの距離を泳ぐので、私には途中で息苦しくなる水温の高さです。


適切なプールの水温はどれくらいなのだろうと気になっていたら、ちょうど野口智博氏「高温下での水中運動」という記事を書かれました。


<「高温下での水中運動」>


小学生の頃は6月から9月まで屋外プールでの授業がありましたが、真夏の7、8月でも中には唇が真っ青になって体が冷え切ってしまう同級生が必ずいました。
野口氏のブログにはこう書かれています。

これまで、低温に関しては「水温と気温(室温)を足して50℃以上」という基準がありましたが、高温の限度についての提言は、あまり見られません。恐らく、こういう状況は想定されていなかったからだと思います。


「寒いからプールは中止」はしょっちゅうありましたが、こういう基準があったのですね。初めて知りました。
それに対して、「どれくらいの暑さ、水温になったら中止した方がよいか」という情報は、たしかにあまり見た記憶がありません。


野口氏のブログでは、冒頭の水温32℃の根拠となる論文も紹介されていました。

32℃以上では、安静にしている状態で酸素摂取量が変化しないということは、深部温を上げるような代謝が不要...となります。

「Nielsen(1978)は、産熱量と放熱量の収支バランスが崩れ、運動中に体温上昇が起こる臨海水温を予測している。例えば、酸素摂取量3l/分(クロールで役43秒/50mのペース)で泳いだ場合、約5℃の温度差が必要となるから、体温を37℃と設定すると32℃が泳ぐ際の上限温度となる。この水温以上で泳ぐと産熱が放熱を上回り、体温の上昇が生じ、長く泳ぎ続けることができなくなり、更に、34℃以上の水温で泳いだ場合、体温が上昇し約30分で危険な状態になることも示している。

「また、Craigら(1968)は、高負荷の運動において、深部温の変化をい防ぐ水温は29℃であることを示している」
いずれも情報としては少し古いものがありますが、授業実施の可否については、環境およびその日に行う実技内容を考慮しながら、33℃、34℃あたりに達したら「勇気ある撤退」も必要であると、考えた方が良いようです。


さて、野口智博氏の勤務する大学の屋内プールの環境が、「室温36℃、水温33℃」「室温33℃、水温32℃」といった状況であることが書かれていてけっこうびっくりです。


公共のプールではたしか、だいたい「室温32℃、水温30.5℃」あたりの表示です。
そうか、この猛暑で、屋内プールといっても水温を下げた状態にするには、おそらく夜間もエアコンで一定の室温を保たれているということなのですね。
快適に、そして何より安全に泳ぐために、室温と水温が調節されていたのだと。

あと、水温って、上げるより下げる方がコストがかかるって知ってました?
なのでできれば、どこかの会社で、経済的にも負担が低く、簡易的に水温を下げられる機器を開発してくれないかな...と願っています。


ああ、水温30℃前後に調節されていることが、何とすごいことなのでしょうか。
今日も感謝して泳ぎに行くことにしましょう。




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