助産師の世界と妄想  30 <助産師会の情報戦>

うさぎ林檎さんの記事経由で、日本助産師会「創立90周年記念誌」を知りました。


助産師なのに助産師会の出版物も知らないのかと思われるかもしれませんが、私は助産師学生の時にほぼ半強制的に入会した1年を除いては無関係できました。
助産師になりたての頃は「助産師の伝統を守る団体」のイメージではあったのですが、次第に開業助産師だけのための団体であることが見えてきて完全に距離をおいたのでした。


助産師関係の職能団体には日本看護協会助産師部会と日本助産師会があるのですが、まあ、どちらもなんとなくつながりあっていつの間にか助産師の方向性について大事なことが決められてしまう奥の間のようなものがあるらしいという認識です。
一般社会には全ての医師の代表と思われている、日本医師会のイメージに似ているでしょうか。


周囲でも助産師会に入会していないスタッフがほとんどです。
ただ、助産師会に対して批判的な視点を持つスタッフもほとんどいないことにも驚きます。助産院は安全なのか?という疑問さえ持つ機会がないのでしょう。
だから、助産師に法的に認められていないことが公然と広がる雰囲気があるのだと思います。


さて、この「創立90周年記念誌」を読むと、「私たち助産師ってすごい」と鼓舞されそうな文章があちこちにありました。



<話を大きくしたり、小さくしたり>


日本助産師会創立90周年記念誌発刊に当たって」(p.6)を読むと、助産師会にとって事実をどう捉えているのだろうと思う箇所がいくつかありました。


阪神淡路大震災を契機に整備してまいりました災害母子支援活動が適切に実施できていることも、ここ20年来の大きな成果です。

「ああ、すごい。あの阪神大震災からすでに災害時の母子支援活動をしてきたのか」と理解しそうになりますが、2013年に「分娩施設における災害発生時の対応マニュアルガイド」がようやく出されました。
しかも、助産師会ではなく日本看護協会からですが。
記憶にある限り、助産師の世界では「災害母子支援活動」は話題になることもない言葉でした。


文末には、こんなことも書かれています。

さらには、本学会でフランスICM会長が話されていたように、アジアにおける母子保健、助産師活動のリーダー的役割を求められています。本会は1万人ほどの会員ですが、母子と女性のセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツに関わる専門職として、次の10年、50年、100年後を見据え、さらに発展的な活動を展開していきたいと願っています。

今、臨床で働いている助産師のうち、どれくらいがこの「アジアのリーダー的役割」とか「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」を具体的にどのようなことか理解できるでしょうか。
なんだか、現場の感覚とはかけ離れている印象ですね。


大きな話の中に、過少評価されてしまっていることが埋まっていました。

戦後のベビーブームを経て、昭和40年代以降、出産の施設分娩への移行と共に、助産所分娩が激減しました。また、その時代は、抗生物質の普及、栄養状態の改善、社会経済の安定などの社会状況の変化と共に、新生児死亡、乳幼児死亡等の改善が著しい反面、母子を取り巻く家族の絆が希薄になりました。

さらっと書かれていると読み飛ばしそうになりますが、新生児死亡の改善は医師の立ち会いのもとで出産が行われるようになったこと、そして誰もが医療を受けられるようにこちらの記事の「健康保険制度と出産手当金」に書いたような社会制度が整ったことが要因だったのではないかと思います。


ところがこういう文章の端々に、それを認めたがらない気持ちが表れているのですね。



<医療を否定しながら医療を利用する>


1950年代から分娩が医療機関で行われるようになりました。


助産師の世界では「助産所と病院」という対立で捉えることが多いのですが、具体的には「自宅での分娩から施設分娩へ」という変化でした。
1950年代から現代まで、助産所診療所と同じ一次施設として医療機関の扱いです。
「古き良き時代のお産」が助産所で行われていたかのようなイメージとは異なり、開業助産婦も分娩の安全のために自宅分娩ではなく「産婦さんを集めてお産を扱う」ようになったのが1950年代の助産所の始まりであったことはこちらの記事に書きました。


ところが、医療機関でありながら医師の判断とは異なる業務を独自に取り込んできたために、さまざまな矛盾を抱えます。
ホメオパシーの問題」にも大きな矛盾を抱えました。


「K2シロップの『代わり』にレメディを新生児に飲ませる」で引用したように、2010年7月9日付の助産師会の見解ではホメオパシーを「自然療法のビタミンK2代りの錠剤」と認識していたようです。
ところが、幻の助産師法案で引用したように、わずか3ヶ月後に出版された「産科と婦人科」の中で、当時の助産師会長だった岡本喜代子氏は、ビタミンK2も医師の指示なく助産師が投与できるようにして欲しいという考えを書いています。



「医薬品のビタミンK2」に取って代わる「自然療法のビタミンK2」があると信じている助産師に、医師は信頼を置けるでしょうか。


ところが、前回の記事で紹介した加藤尚美氏の文章には、以下の文が続きます。

戦前戦後は、産婦人科医が助産院に妊産婦を送って欲しいとか、異常があって送れば開業医からお礼が届いたそうである。このようなことを話してくれる助産師も今は少なく、さみしい限りである。時代の変化にどのように対応して行くか、医療の発展に伴い、母子の安全安心と健康に貢献し、研修を受講し、研究をしている助産師を信じてもらいたいと思うのは私ばかりではない。


医療の仕組みを利用しながら、どこかで医療を否定する。
そういう気持ちが伝わってくるので、私が求めている医療ではないと私の気持ちも助産師会の文を拒絶するのです。
「幻の助産師法案」実現のための呪縛から自らを解放しないと真の反省もできないし、助産師からさえも信頼されることはないのではないかと思う次第です。




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