事実とは何か  54 <街の名前と印象>

国会庭園北庭の日本水準点を見たあと、どうやって帰宅するか地図を眺めながら考えました。数路線の地下鉄が通っているので、どれに乗っても帰れるのですが、せっかくだからふだんは歩かないような道を探してみました。


昨年、溜池山王駅あたりから赤坂見附方向へ向かって歩いたことがあります。ふだんは地下鉄の中なので、案外地上の風景を知らないことが気になったのでした。
ここ3年ほど都内のあちこちを散歩するようになって、子どもの頃から都内、特に23区あたりは平らな地形のイメージがあったことがことごとく思い込みであったことに驚いています。
とても高低差がある場所が多く、むしろ武蔵野、三鷹あたりから立川方面の方が国分寺崖線の上の台地で高低差が少ないことを実感しました。
その都心のさらにど真ん中ともいえる永田町に日枝神社があるのですが、ちょうど七五三の時期で正装をした家族連れが急な階段を登り下りしていて、小高いところにあることが印象的でした。


地図を見ると、日枝神社の周囲がぐるりと円を描いたような道に囲まれています。
ちょっとあの裏側を見てみたいと、北庭から国会議事堂の裏を歩くことにしてみました。


地図では想像がつかなかったのですが、自民党本部の建物の前から国会議事堂裏にかけて険しい下り坂になっています。日枝神社と日比谷高校が高台にあって、国会議事堂との間の谷間に衆議院会館とその第二会館が建っています。
永田町方面に通勤するって、結構大変そうだと思う地形でした。


衆議院第二会館を過ぎたところで、一瞬、私はどこにいるのだろうと戸惑うことになりました。


というのも、目の前に急に民家が建ち並ぶ一角があったのです。
路地を挟んでごく普通の民家です。大きさでいえば二階建ての4DKといった感じ。
国会議事堂の裏手、「永田町2丁目」に、いつからどのような経緯で住んでいるのでしょうか。
いえ、住んでいる人にとっては、「自宅の裏」が国会議事堂という感じかもしれませんね。
そこを通り抜けると左手に首相官邸があり、再び、溜池山王周辺の都心部の風景になりました。



<「都会の一等地」って何だろう?>


日本の政治の中枢部の永田町に普通に民家があることに驚いたのですが、その直後に、続けて都会の一等地の建設についてニュースがありました。
ひとつは南青山の児童相談所建設、しばらくして今度は白金台の保育室建設についてでした。


最初は「南青山のおしゃれな街に、そんな施設を建てるな」と反対しているイメージのニュースでしたが、いくつかニュースを読んでいると区が決定するまでの経緯がうまく伝わっていなかったのではないかという印象のニュースもありました。
そのあとに、白金台の保育室建設についての反対のニュースがあったのですが、「憩いの場の公園を使われることになる」といった反対の声に対して、「子どもは国の宝」とまるで世代間の反対感情が強いかのような報道でしたが、むしろあと4年ほどで環状4号線になるまでの間の一時的な期間のために多額の税金を使うことの是非が問題とされたのではないかという印象でした。


ことの詳細はよくわからないのですが、だいたいの報道が「南青山とか白金台といったセレブの街に住む人の感情」のようなものを煽り立てた見出しにするので、こちらも感情が煽られて「福祉や公共の利益に無理解な住民」がいるかのようなイメージが先に作られてしまいそうになります。


ちょうど先月、私は白金台を散歩しました。
表通りのビルの裏側には一歩入ると、ごくごく普通の住宅街が密集しています。
あの国会議事堂の裏に住宅があるように。


南青山というと「おしゃれ」と思うかもしれませんが、1980年代にはまだ青山墓地の周辺は団地があったし、ちょっと高級感のあるベルコモンズのビルがポツンと建っていたくらいでした。
広尾というと80年代ではすでに超高級住宅街といった街になっていましたが、私が生まれるちょっと前の1950年代は食生活改善普及運動があったようですし、その「渋谷の記憶」のセピア色の写真を見ると、今でも商店街の風景と重なる場所もあります。


「都会の一等地」と表現する時、そこには見る角度によってさまざまな複雑な感情があるのかもしれませんね。


さて、冒頭の国会北庭への散歩は広尾駅からスタートしたことを書きましたが、有栖川記念公園とドイツ大使館の間の坂を登りきると、大使館に隣接して港区立のちょっとおしゃれな建物があります。
なんだろうと近づいてみたら、「港区立ありすいきいきプラザ」という高齢者向けの施設でした。
でも高齢者だけでなくて、1階のラウンジは子ども連れのお母さんたちもお茶を飲んだりできるようです。


誰もが利用できる建物にお金をかけると、街の風景に溶け込んだ現実の生活の場所ができていくのではないかと思いました。
それこそ、「一等地」かもしれませんね。




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