10年ひとむかし 44 その言葉が使われ始めた時代

犬養道子さんの「お嬢さん放浪記」は、私が初めて手にした1980年代は中央公論社から出版されていました。

40年ぶりぐらいに購入したものは、角川文庫から昨年2018年7月に出版されたものです。そういえば最近、中央公論社という名前を目にしないと思っていたら、1999年になくなっていたようです。犬養道子さんの本は中央公論社が多かったし、20代の頃から、書店に行くと中央公論社の文庫のラインナップが好きでいろいろな本を手に取っていたので、寂しいですね。

犬養道子さんの本が他の出版社から復活させたのはどんな方々の、どんな動きがあったのだろうと感謝です。

 

その40年前の裏表紙の解説は全く記憶にないのですが、新しい文庫本では「セレブお嬢様の奮闘記」という表現が使われていて、当時はまだ「セレブ」という言葉は日本社会ではなかったし、言葉がなければその感覚もまた違っていのではないかと引っかかっていました。

犬養道子さんの本に出会った頃、当時はすでに難民救援で世界中を飛び回っていらっしゃる方でしたし、犬養元首相の孫という立場を考えると、生きている世界が多少違うような印象は感じました。

ただ、私の世代であればすでに、子どもの頃から社会階層を意識しなくてよい社会に変化していましたから、「これからの自分」を重ね合わせながら読んでいました。

 

もちろん、私の知らない昔からの上流階級のような人たちもいたのでしょうが、しだいにそういう特権階級がなくなっていくことを感じていたのが1980年代でした。

誰にでも、広い世界へ飛び出していける可能性が開けた、そんな時代。

 

ところが、しばらくして「セレブ」という言葉が広がってきて、それに憧れるかのような風潮を感じたときの、なんとも言えない歴史のあと戻り感が気になっていました。

 

セレブってなんだろう、実はよくその意味を調べたこともありませんでした。

ということで、語源由来辞典の引用です。

【意味】セレブとは、名士。有名人。女性誌などでは、知名度に関係なく、美しく優雅で知的な女性を意味したり、お金持ちを指すことが多い。

 

【セレブの語源・由来】「celebrity(セレブリティ)」の略で、著名人や有名人のことである。1990年末頃から、海外の有名女性やスーパーモデルを「セレブ」、それらが身につけるアイテムを「セレブ御用達」と表現されるようになった。日本では、意味が曖昧なまま広がったため、単にお金持ちになることやブランド品を身につけることも表すようになり、更に解釈が拡大し続け、個々の持つ抽象的なイメージ表現として用いられるようになったため、セレブの定義は無いに等しくなった。

 

「定義は無いに等しい」言葉があるということが、なんだか現代のリアリテイのなさを感じさせる場面が多いことに通じるのでしょうか。

 

「等身大」という言葉が聞かれるようになったのが1990年代初頭だと記憶しているので、そのあとにセレブが広がったことになります。

もしかしたら、「等身大で生きたい」と「セレブになりたい」が、これからも反語のように繰り返すのかもしれませんね。

 

私にとっては、「お嬢さん放浪記」はむしろ犬養道子さんが等身大の自分を求めた時期の話だと受け止めていたのでした。

 

 

「10年ひとむかし」まとめはこちら

犬養道子さんについての記事のまとめはこちら