1ヶ月ほど前、母の日のカーネーションについて介護士さんの意見が偶然、目に入りました。
家族が花を贈ると、それの世話をしたり片付けをするのは介護士さんたちで大変だということに加えて、「花を贈るのは家族の自己満足」と書かれていたと記憶しています。
私自身は母の日だからといって花や贈り物をすることはないのですが、たしかに、この時期に一斉に花が施設へ送られてきたら通常業務外のことが増えるのかと、現場の声としてなるほどと思う反面、「介護施設に入所している人に植物を贈るのは非常識」ぐらいまで話がヒートアップしそうな様相に少し驚きました。
*介護施設は生活の場*
なかに「病院では感染対策から植物のお見舞いは禁止」という意見もありました。
病室への植物の持ち込みをどうするかと初めて問題視されたのが、1990年代に始まった院内感染標準予防対策でした。
ただし、現在でも「免疫不全がなければ花瓶の水や鉢植え植物は感染源にならない」(2003年CDC)というあたりではないかと思います。
以前は、花束を花瓶に移し替えて水を取り替えることが主流でしたので、患者さん自身が水換えをできない状況など、個別に制限することも必要な場合もあったことでしょう。
ところが現在は、消毒効果のある水のおかげで2週間ぐらい水やりをしなくても綺麗なままのアレンジメントフラワーがあります。
分娩施設でも、時々こうしたお祝いのお花があります。
「新生児がいるから感染源はだめ」なんて根拠のない規制はしていませんし、アレンジメントフラワーであれば産後の体のきついお母さんたちでも世話をしなくて済みますから、特に問題に感じることもありません。
私も、「きれいですね!」と一緒になって眺めています。
まして介護施設というのはより生活の場ですから、感染対策で規制するのは筋が違うのではないかと思います。
*植物に励まされる*
9年ほど前に想定外の半身麻痺になった母は、急性期病院からリハビリ病院への転院、そして在宅か施設かの選択と、目まぐるしく生活の場が変化し重い判断を迫られた4ヶ月の後、介護付き有料老人ホームへと移りました。
次の面会の時に持っていったものが、小さな鉢植えの観葉植物でした。
その施設がある駅前の花屋さんで、ふと思い立って購入したときのことをはっきりと覚えています。
まだ若い夫婦がやっているお店で、お店の中にバギーに乗せられた赤ちゃんがいました。
母はその小さな鉢植えを、ことのほか喜んでくれました。
病院なら鉢植えは「寝づく」と忌み嫌われるものですが、そこは生活の場ですから、母は半身麻痺のリハビリ中でも水やりをかかさず、昨年、特別養護老人ホームへ移るまで大事に育ててくれました。
母が植物を育てることが好きなことを知ったスタッフの方々は、庭の植物の手入れなども勧めてくれました。
母の部屋の中は、少しずつ花や鉢植えが増えて、出入りするスタッフの皆さんもとても楽しみにしてくれていたようです。
そして、母も車椅子から杖歩行まで回復したのでした。
昨年、転倒して寝たきりになると思った母ですが、いまはまた車椅子に乗りながら特別養護老人ホームでも室内の植物に水やりをしています。
「部屋に緑が欲しい」というので、小さな観葉植物を持っていったのでした。
そして母の気持ちが落ちそうになると、豪華なアレンジメントフラワーを贈っています。
私自身のなんとも言えない自己満足や罪悪感を少し意識しながら。
そんな家族側の気持ちも受け止めてくれているのでしょう、スタッフの方々も花を喜んでくれて、写真を撮ってくれたり、花が枯れたあとの花かごにドライフラワーを入れて飾ってくれたりしてくださっています。
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