紹介されていた漫画の最後に、こんなことが書かれていました。
WHOでも定めているよ
国際基準(WHOの国際基準の災害時の乳幼児栄養の指示)で定めていること
○それぞれにあった方法をきちんとアセスメントして必要なミルクを渡す
×災害時ミルクを一律配布
×平常時ミルクの試供品や試飲
あんどうりすさんといえばよくお見かけする漫画家だったので、いつのまにかこういう内容を描くようになったのかと興味が湧きました。
どうやら「防災アドバイサー」「アウトドア流防災アドバイサー」としてたくさんの講演会をされているようです。
その方のHPに「参考文献」が掲載されていたのを見ると、こちらの流れと同じようです。
おそらく子育て世代を対象にした講演などで、こうした流れに出会ったのだろうと想像しています。
*「国際規準」とは何か*
最近では「赤ちゃんの命を守る乳幼児の国際基準に違反した場合には通告サイトも!」(リスク対策.com、2019年2月8日)という記事を書かれていました。
災害時の乳幼児栄養救援活動の国際基準は、通称OG-IFEと呼ばれ、WHO(世界保健機構)、UNICEF(国際児童基金)、WFP(国際食糧計画)、UNHCR(国際難民高等弁務事務所)などの国際機関や複数の人道援助団体からなるネットワークが発行したもので最新版は2017年版が出されていること。
ここでは、過去の災害におけるデーターやエビデンスから災害時に母乳を与えられなかった赤ちゃんが有意に下痢や死亡率が高くなっていることから、災害時は母乳支援が何よりも重要とされていること。
そして、母乳しか存在しない抗ウイルス成分、抗寄生虫物質、抗がん物質、抗アレルギー成分、抗体によって赤ちゃんが感染症や下痢から守られ、たったテイースプーン1杯でも菌を殺す成分が300万入っていることから、わずかな量でも母乳を与えられるよう支援が必要であること。
液体ミルクについては2010年の追補で記載され、「災害が起こって間もない時期水で希釈する必要のない液体ミルクが便利とあり、液体ミルクは、母乳育児支援を第一次的にしながら第二次的な方策として、母乳が与えられない赤ちゃんに対しての支援であること。またもし与えられるとしたら、支援が必要なくなるまで継続して十分に与えられなければならないことも記載されている。
最近の母乳が万能という野心的研究はここまできたのかと、知りました。
*「国際規準」に関心が持たれない理由*
「国際規準」というのは何かといえば、1970年代に始まる国際的な完全母乳『戦略』が生み出したものといえます。
日本では90年代からぼちぼちとこの運動が紹介されてきましたが、少なくとも実際に乳児に接する専門家には「国際規準」という言葉はそれほど広がらなかった印象です。
なぜか。
不勉強だからではなく、それは目の前の乳児にとって現実的な解決策ではなかったからです。
中には、母乳育児成功のための10か条に沿って、「医学的に必要な場合以外は糖水やミルクを与えない」「ほ乳瓶や人工乳首を使用しない」と厳格に守るという施設もありますが、誰もが「母乳だけで育てられる」というわけではないこと、低血糖や体重増加不良など成長発達に大きな影響を与えるリスクもあるという当たり前の結果です。
あえて実験的な手法は取り入れずに、現実的な対応をしてきた施設の方が多いのではないかと思います。
現実問題というのは簡単な解決方法がない中で模索し続けるしかないのですが、それでも「授乳・離乳の支援ガイド」という考え方にまとまりつつありますし、災害という支援が明記されるようになりました。
「国際機関」や一見理論的に見える「国際規準」に正解があるのではなく、さまざまな政治的な思惑が絡み合ったものなのでしょう。
最初は「母乳をあげ続けたいので社会が理解してほしい」という思いから始まった運動が、どんどんとコアで複雑な運動になっているようで、思えば遠くへ来たものだという印象です。
*おまけ*
本文中には「国際基準」と「国際規準」という表現が混在しています。
今回私も初めて気づいたのですが、日本ラクテーションコンサルタントの書籍ではすべてこの「国際規準」という漢字が使われていました。
私自身は、ずっとガイドラインの意味の「基準」だと思っていました。
「従うべき」という意味の「規準」という言葉もあるのですね。
「運動のあれこれ」まとめはこちら。
完全母乳という言葉を問い直すと母乳育児という言葉を問い直すのまとめもどうぞ。