自衛隊の空港検疫への自主派遣の記事を読んで、そういえばもうかれこれ20年ほど空港検疫とは無縁の生活だったと思い返しました。
90年代までは東南アジアへ2週間とか1年の滞在で、比較的国際空港を利用していた方でしたが、最後に海外へ行ったのは2001年の秋でした。
もう、空港検疫に関しては浦島太郎状態です。
それまでは感染症といえば、どちらかというと黄熱病やマラリア、デング熱、コレラやA型肝炎といったいわゆる熱帯病に現地でかからないようにするという視点でした。
ですから、日本から他国へ入国する検疫は何も問題なくて、感染流行地からの帰国者が警戒されたぐらいでしょうか。
簡単な質問用紙に記入して、検疫を当たり前のように通過するだけでした。
ところが、2000年代に入って日本も感染症を持ち込む側の国として警戒されたのが、麻疹でした。以降、SARSやら新型インフルエンザやら、エボラ出血熱やら、人や動物の移動に伴って社会に大きな影響を与える感染症を毎年のように耳にするようになりました。
2014年にはデング熱も日本で広がりましたしね。
1980年代に難民キャンプでCDCのプログラムに沿った予防接種などの業務を遂行していた時も、「自国に疾病を持ち込ませない」側の意識しかありませんでした。
あれから30数年、まさか「先進国」からの移動でもこんなに感染症が広がる事態になるとは。
空港検疫に関して、ここ2週間ほどで気になった二つの記事を記録しておこうと思います。
(赤字強調は引用者による)
「帰国者からクラスター」厳戒を 都市部の対策重要に
(2020/03/23 18:54 日本経済新聞)
海外から帰国した人で、新型コロナウイルスの感染確認が相次いでいる。3月以降、空港の検疫で感染が確認されたのは欧州を中心に計18人(23日現在)。さらに検疫では確認されず国内で発症するなどして判明した人が各地で確認されている。専門家は「今後、1〜2週間以内に帰国者を起点とする感染の連鎖が形成される可能性が高い」と警鐘を鳴らしている。
「1、2月の状況とは全く異なる状況にある」。厚生労働省が設置したクラスター(感染者の集団)対策班は現状分析した結果を東京に文書で伝えている。海外での感染拡大を受け、帰国する日本人が増えており、「第1波の中国・武漢からの感染者数とは桁外れの感染者が今後、入国してくる」からだ。
22日にも、英ロンドンに約2週間出張していた東京都在住の60代男性が空港に到着後、頭痛を訴えたため検査したところ、感染が確認された。
同省によると、横浜港に寄稿したクルーズ船と中国からのチャーター機で帰国した人を除くと、日本の検疫で新型コロナウイルスの感染を確認されたのは23日までに18人。初めて確認されたのは4日で、東南アジアから中部国際空港に帰国した40代男性だったが、ほとんどはイタリアなど欧州からの帰国者だ。
検疫での感染確認は20~40代の若い世代が多いのが特徴で、18人のうち13人は無症状だった。厚労省が検疫を強化しているため感染を確認できたが、新型ウイルスは潜伏期間が2週間に及ぶケースもある。検疫を強化しても"すり抜け"が起きる。
実際、18日には岐阜市で米ニューヨークに渡航した50代男性、愛知県でフィリピンから帰国した40代女性と10歳未満の小学生女児、千葉県で欧州から帰国した30代男性など計7人が国内で感染を確認されるなど、すり抜けが相次いでいる。
厚労省のクラスター対策班が最も恐れているのは、感染をすり抜けた帰国者が起点となって人口の多い都市部でクラスターが発生し、さらにクラスターが連鎖して大規模な「メガクラスター」が起きることだ。
ひとたびメガクラスターが起きると、欧米で起きている爆発的な患者の増加(オーバーシュート)に陥る。対策班は東京都に示した文書で「そのような状況になるとクラスター対策だけで流行を抑制することが困難となり、強力な社会的隔離政策を取る以外に選択肢がなくなる」と指摘する。
対策班によると、メガクラスターは、軽症者が多い若年層と、人口自体も多い大都市圏で起きる可能性が高いという。対策班は感染が確認されている現状より深刻な状況になっていると考えられる地域として札幌圏、首都圏、中部圏、近畿圏をあげている。
特に東京では感染源がわからないケースが増えている。対策班は東京都に対し「全国への人の移動のハブ(中枢)である東京で大規模な流行が起こると、中高年層で重症者が多発する。東京で積極的な対策を行うことは日本全体にとっても重要」として、より積極的な対策を求めている。
<新型コロナ>帰国者の 波、再び水際懸念 入国拒否拡大 中部空港活用検討
(2020/4/2朝刊、東京新聞)
政府は一日、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で入国拒否の対象を七十三カ国・地域に拡大したことを受け、対象国から帰国する日本人が急増すると見ている。多数の帰国者の感染の有無を調べるPCR検査など水際対策を適切にできるかどうかが問題となる。羽田、成田、関西の三空港で検疫作業が追いついていかない場合、邦人の帰国便を中部国際空港(愛知県常滑市)に振り向ける案も検討している。
政府高官は入国拒否の対象拡大で「帰国する日本人が何千人も押し寄せる」と予想。別の政権幹部は「四千人以上」に及ぶとみる。政府は対象国からの到着便を抑制する方針。航空便の運航が止まれば、現地邦人は帰国の機会を失うことになりかねず、駆け込みで帰国する可能性が高い。
菅義偉(すがよしひで)官房長官は一日の記者会見で「適切な検疫を実施できるよう職員や機器の確保などを行い、万全を期す」と強調した。
ただ、入国者が殺到すれば、検疫に対応する職員が足りなくなり、空港周辺のPCR検査施設に負担が集中することも懸念される。
このため、政府内で「帰国者が予想外に増えたら、中部国際空港を使う」(高官)とのアイデアが浮上した。中部国際空港は感染拡大で運休が相次ぎ、一日以降の国際線が二〇〇五年の開港以来、初めてゼロになるため、検疫体制に余裕があると見られる。
政府は同時に、全世界からの日本人を含む入国者に指定場所での二週間待機と公共交通機関の使用自粛を要請することも決めた。自粛要請に従わず、公共交通機関で帰宅する帰国者が相次げば、感染を拡大させることになりかねない。それだけに政府は帰国者の処遇に神経をとがらせる。
首相は一日の政府対策本部で、空港での確実なPCR検査と同時に「適切な退避場所の確保」も進める考えを示した。政府は空港周辺などのホテルの確保を急いでおり、宿泊費の国負担も検討している。
「入国後の行動を自粛」とか「入国制限」あるいは「全員を一箇所に一定期間留めておく」という対応を実行するまでには、けっこう時間がかかるものなのですね。
医療崩壊を防ぐ鍵の一つはこの検疫を強化すること、そのために帰国者をどう「停留するか」の支援体制が大事だということが3月半ばにすでに重要視されていたのではないかと読める記事でした。
日本は島国だから空港や港を閉鎖すれば簡単にできそうと思うのは、江戸時代の鎖国のイメージですね。
30年前と比べても、今や途方もなくさまざまな国へ、人や物が移動している時代へと急激に変化したのだということを痛感する今回の状況です。
「記憶についてのあれこれ」まとめはこちら。