散歩をする 251 八ッ場あがつま湖を訪ねる

いつもなら遠出の散歩が終わると、自動改札機で消えてしまうチケットがひょいっと出てきました。石巻まで日帰りで行ったというのに、同じチケットで翌日にまだまだ乗り放題ができる週末パスです。

 

そのチケットを持って、翌日は吾妻線川原湯温泉駅を目指しました。

1990年代半ばにここを訪ねた時は、国道145号線を車で行きました。

吾妻渓谷の両側にダムの本体の一部が建設され始めていたのを見たような気がしたのですが、もう一度その沿革を読み直すと、当時は「1994年(平成6年)、建設省はダム本体工事に伴う付帯工事に着手」とありますから、記憶違いでした。

2014年(平成26年)8月7日、国土交通省関東地方整備局は本体工事を清水建設鉄建建設IHIインフラシステム3社JVが342億5000万円で一般入札で落札したと発表し、2019年度の完成を目指すとした。2015年(平成27年)1月21日、本体工事開始。同年2月7日、本体工事起工式、2019年(令和元年)10月1日から試験湛水開始。

 

私が見たダム本体工事現場は、奥三面ダムの方だったようです。

 

八ッ場ダムのニュースがあるたびに、いつか再び川原湯温泉を訪ねようと考えていたのですが、あの美しく静かだった旧川原湯温泉が八ッ場あがつま湖の湖底に沈んだ風景を心を落ち着けて見ることができるだろうか、とためらっていました。

 

吾妻線に乗る*

 

高崎を10時44分に出発する吾妻線に乗りました。

渋川の手前までは上越線と同じ線路なので、あの両岸の切り立つような河岸段丘の風景をもう一度眺めました。関越自動車道の手前で、利根川左岸の崖に大きな円柱形の建物が見えました。帰宅してから確認すると、佐久発電所でした。いつか近くで見て見たいと、群馬用水とともにこの地域を歩く計画ができました。

 

渋川からは吾妻川に沿って山あいに入っていきました。

金島駅の周辺では、稲刈りのあと天日干しをしている風景に惹きつけられました。

彼岸花の向こうに、トンネルの合間のわずかの区間北陸新幹線が通過するのを見ることができました。なんと幸先の良いスタートでしょうか。

 

車窓に見える吾妻川と山、そして二十数年前に見た村がそのままあるような風景が、秋晴れの中に輝いていました。

郷原駅のあたりから、国道を走る車が増えました。

 

少し長いトンネルを抜けると、真新しい街が両岸にある川原湯温泉駅に到着しました。

目の前に、八ッ場あがつま湖が真っ青に広がっています。

駅で降りたのは3人ほどでしたから、駅周辺は静かでした。

 

八ッ場ダムと新しい川原湯温泉

 

吾妻川左岸にある「やんば館(八ッ場ダム広報センター)」と右岸にある「なるほど!やんば資料館」を訪ねるつもりでした。

ところが、実際に駅に降り立って八ッ場あがつま湖の大きさを見たら、徒歩ではとても無理だとわかりました。

 

まずは対岸の道の駅に行ってみようと、不動大橋を渡り始めました。駅周辺では人もまばらだったのに、対岸から橋を渡ってくる人が結構いました。

道の駅に行ってお昼ご飯でもと考えていたのですが、そこはすごい人と車でした。

どうやら、国道が混んでいたのは八ッ場ダムを見に来る人たちだったようです。

 

道の駅内にも、八ッ場ダムの経緯と川原湯温泉の説明パネルがあったので見学し、資料をもらったあと、人混みから逃れるようにまた駅側に戻ることにしました。

不動大橋の真ん中で、下流には大きなダム本体が見えました。

上流側を見ると、道の駅があるところよりさらに高い場所に、移転した新しい家々が見えました。

 

駅のそばにある川原湯神社に行ってみようと思いました。

駅からも真新しい社殿が見えていました。この神社も移転したそうです。

移転先の住宅地の中にあるようなのですが、どこから参道があるのか、ぐるりと歩いても見つからずに断念しました。静かな生活の場に踏み入るのを躊躇しました。

 

駅からダム湖に沿って少し歩いたところに、新しい川原湯温泉があります。

誰とも出会わない静かな道を1人で歩きました。

途中、湖を覗きこむと、高い木がそのまま水没していて、その近くに住宅の基礎部分のようなものが水底に見えました。

このあたりが、二十数年前に歩いた場所だったのかもしれません。

 

川原湯温泉の真新しい温泉やレストランは、車で訪ねてきた人で賑わっていました。

 

静かな湖面と周囲の山々、青い空を見ながら歩いていたら、お腹が減りました。

川原湯温泉駅のそばにある「あそびの基地NOA」に、おしゃれなカフェテラスがあって、八ッ場あがつま湖を眺められる席も空いていたので入りました。

キーマカレーのホットサンドを頼みました。そして思わず、生ビールも。

 

二十数年前は、私と同じ世代とそれより若い世代の方々が、全く将来が見えない中で「故郷を離れるかどうか」という選択を迫られていました。

 四半世紀というのは、これだけ一つの地域を大きく変える時間なのですね。

まさか、おしゃれなカフェテラスで地元の野菜を使った美味しいキーマカレーサンドを食べながらダム湖を眺めるなんて、誰が想像したでしょうか。

 

こんどは平日の人が少ない時期に、もう一度資料館を訪ねたいと思いながら、帰路につきました。

 

 

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