「阿武隈川上流水害写真集」に「防災エキスパート出動状況」(p.166)があり、初めて防災エキスパートを知りました。
○防災エキスパートとは(「制度要綱」より)
公共土木施設の整備・管理などに関する専門的ノウハウを持ち、災害発生時に公共土木施設の被災情報の迅速な収集などの協力活動を自主的かつ無報酬で行うものとして登録した者。
そのページでは2カ所で「事務所におけるアドバイス・打合わせ状況」「防災エキスパートによる被災状況調査」をしている写真が掲載されていました。
*防災エキスパートとは*
検索すると一般社団法人関東地域作り協会のサイトに、関東での詳しい説明がありました。
防災エキスパート制度について
地震や風水害等の大規模災害発生を想定し、災害復旧事業に関する支援体制の拡充を図るため「関東地方防災エキスパート制度」があります。これは、公共土木施設等の整備・管理等に豊富な経験を持つボランティアの人たちを「防災エキスパート」として登録する制度で、災害復旧事業に役立てていこうというものです。平成7年1月17日に発生した阪神・淡路大震災の教訓を受けて翌年平成8年1月16日に発足しました。
ああ、そうでした。1995年はボランティア元年という言葉が生まれた年でした。
1980年代に日本でも民間のボランティア団体ができ始めたのですが、その活動は主に途上国で、ボランティアという言葉は「(日本の)一般社会からはずれて生きている」というニュアンスでした。
ボランティア元年を機に、国内の災害時に応援に行く人たちが増え、30年の間に、災害派遣チームが現地にすぐ派遣され、各地からボランティアが多く集まってくるようになったのは隔世の感があります。
あの時期に、この「防災エキスパート」という専門集団が、ボランティアという立場で生まれたのですね。
*登録対象者の要件とその活動*
冒頭のサイトに、「登録対象者の要件」として以下のように挙げられています。
・公共土木施設の整備・管理等についての経験を有し、公共土木施設等の被害状況等の把握ができる知識を有する人
・心身ともに健康であり、自己の責任で可能な範囲において、ボランティア で防災エキスパートとしての活動に参加できる人
・被災地域における早期の災害復旧等に関して誠意を持って協力し、関係する公共機関等や一般のボランティア等と強調して活動できる人
「自発的活動」として、管内で震度6以上の地震が発生したと判断される場合、「自己の可能な範囲で公共土木施設等の被災状況を把握し、その通報活動を行います」とあります。
土木関係のことはわからないのですが、こちらの記事の「職業の専門教育課程」に書いたように、専門教育を受けたあと何十年もかけて専門職として完成形に近づいた人たち、つまり達人レベルの人たちではないかと思います。
背後に豊富な経験を有しているため、状況を直感的に把握し、他の診断や解決方法があるのではないかと苦慮することなく、正確な方法に照準を合わせることができる。
だからこそ、自発的活動を行える状況を判断することもできるし、その責任もとることができるレベルなのだと思います。
*ボランティアという言葉を問い直す時期にきているのではないか*
であるならば、なぜ「ボランティア」なのだろう。
1980年代にインドシナ難民キャンプで働いたときに、災害時のフェーズ0に集められる人たちは訓練された人たちであり、無報酬ではありませんでした。
同じ頃、日本では「無償の」というニュアンスで「ボランティア」という言葉が広がってしまったのではないかと、思い返しています。
具体的に現場を知っているわけではないのですが、「エキスパート」として登録されているのであれば、それなりの報酬を支払うことが、専門性を大切にしていくことにつながるのではないかと思います。
今までは防災はコスト削減の対象という見方だったものが、防災や災害史を基本にした教育などで、新たに経済活動も活発にできるのではないかと。
「介護」だって、わずか30年ほどの間に経済活動の一部 になりました。
1990年代、「無駄な公共事業はなくせ」「公務員を削減しろ」という時代に入ったので、エキスパートな方達もボランティアと呼ぶしかなかったのかもしれませんね。
「専門性とは」まとめはこちら。