伊勢湾台風の記録や江戸時代からの木曽三川の分離工事など、今までちょっと知っていた気になっていたことも、また目の前の資料を読むと知識の入り口に立っただけだったことを感じました。
分刻みでとにかくその地域の雰囲気を見て回るという今までの遠出とは違って、今回はアクアプラザながらの展示をゆっくりとみる時間を確保していましたから、すべてのビデオを観ました。
30年前はどうして、河口を(無粋な建物で)堰き止めるとしか見えなかったのだろうと、大いに反省したのでした。
写真に撮っておいた「長良川河口ぜきのしくみ」のパネルの内容を、記録しておこうと思います。
長良川河口ぜきのしくみ
長良川河口ぜきでは、ふだんは水がゲートの上を流れるようになっています。このため満潮のときにも塩水はせきより上流にはのぼりません。
せきの上流の水は淡水になるため、貴重な水を安定して確保できるようになりました。
長良川河口ぜき
総延長 661メートル
可動部延長 555メートル
ゲート型式 越流型シェル構造2段式ローラーゲート
こんなときとどうする
洪水・高潮のとき
水の流れを妨げないよう、ゲートを堤防より高いいちに引き上げます。
せき柱とせき柱の間は45メートルもあるので大きな木が流れてきてもじゃまになることはありません。
魚たちのとおる道
長良川河口ぜきには、魚たちのとおる道として
「呼び水式魚道」
「ロック式魚道」
「せせらぎ魚道」
といった3種類の魚道があります。
河口ぜきによる長良川の生き物たちへの影響をできるだけ少なくするように配慮しています。
塩水をくいとめる河口堰
「ぼくは河口ぜきのゲートだよ。ぼくの役目は塩水をストップさせることなんだ」
「塩水は通さないぞ」
「おいしい水だヨ」
「しゅんせつが安心してできるヨ」
しかし、しゅんせつによって、塩水が上流にまでのぼってしまっては困ります。
そこで、しゅんせつ工事を安心して行うために建設されたのが「河口ぜき」です。
河口ぜきによって塩水が上流にのぼるのをくいとめることができ、さらに上流では淡水を確保することもできます。
しゅんせつと塩水のそ上
長良川には、河口から15kmのあたりに、マウンドと呼ばれる川底の高くなったところがあります。海からのぼってくる塩水はこのマウンドによって止められています。
しかし、「しゅんせつ」によって川底を掘り下げると、マウンドもなくなるため、川の上流から流れてくる水の量が少ない時には塩水が今までより上流にのぼってしまいます。
川をのぼる塩水は、やがて地下水にも混じってしまうため、しゅんせつだけをすると川から淡水が取れなくなるだけでなく、まわりの田畑でも作物ができなくなったりします。これを「塩害」といいます。
しゅんせつが最も良い方法
長良川下流部を安全な川にするには、川の断面積を増やして、水が流れやすくすることが必要です。
それには ●堤防を高くする
●川幅を広げる
●川底を掘り下げる
の、3つの方法が考えられます。
しかし、「堤防を高くする」と川の水が高いところを流れることになり危険性が増し、「川幅を広げる」と多くの家が引っ越さなければならない、また、これら2つの方法は、川沿いの多くの橋や道を作り直さなければならない、といった問題があります。
長良川下流部周辺は海抜ゼロメートル地帯で、しかも多くの人々が川辺で暮らしているため、川底を掘り下げる「しゅんせつ」が最も良い方法なのです。
「治水と利水」「多目的ダム」となんとなくわかっていたつもりになっていたのですが、海と川の水が混ざり合う地域で淡水だけを取り出すために、千年という単位の長さが必要だったことに思い至るようになりました。
本流にダムのない長良川
ダムは川を流れる水の量を調節して洪水を防いだり、飲み水や農業用水、工業用水を確保するほか、発電のためなどに作られます。
長良川は、ダムを作りにくい地形であるうえに、川のまわりに多くの人々が住んでいて、ダムを作ると、多くの家がダムの底に沈んでしまうことになります。
長良川支流には、現在建設中のものも含めて6つのダムがありますが、「本流にはダムのない川」なのです。
ダムに対する批判が強まった1980年代ごろから、「ダムがあるかないか」は「自然か不自然か」ぐらいの受け止め方しかできていなかったのですが、「ダムを作りにくい地形」があることまでは思い至りませんでした。
これが専門性なのだと、小学生にもわかる平易な言葉で書かれたパネルの前で圧倒されたのでした。
「専門性とは」まとめはこちら。