記録のあれこれ 115 「日本一低い谷中中央分水界」

谷川駅で36分の接続待ちをし14時46分の福知山線福知山行きに乗ると、ぐいと山の中へと入り再び水田が見えて柏原(かいばら)駅、その次が石生(いそう)駅で、わずか11分で到着しました。

地方に行くと待ち時間の方が長くなりますね。でも周囲の風景を眺めていられるので苦になりません。

それにしても、なかなか読めない駅名が続きます。

 

石生駅に降りると、駅前に「日本一低い谷中中央分水界」の表示と水(み)分かれ資料館への案内がありました。

国道176号線を南へ200mほど歩くと「水分かれ」という交差点があり、小さな川が山から流れていました。

 

『水分れ(みわかれ)橋』と『氷上回廊(ひかみかいろう)』

 

この『水分れ橋』は日本一低い谷中中央分水界(標高94.54メートル、全長250メートル)の中ほどに架けられた橋です。

水分れは「身分れ」に通じることから別れることを嫌い、嫁入り行列は一つ上流の狼橋(大神橋)へ迂回しました。

加古川水系(瀬戸内海側)と由良川水系日本海側)の流域がこの石生で近接し、雨水を二手の水系に分ける場所として『水(み)分れ』と呼ばれています。

また、山地に挟まれた南北に伸びる細長い低地帯で、両水系を繋ぐ一つの道であり『氷上回廊』と名付けられています。

太古の昔から南北の人・物・文化さらに生き物が行き交うルートであり、交通の要衝としても栄えました。

 

 

地図では、石生駅の西側わずか150mほどのところから細い水色の線が始まり、北から北東へと流れを変えて由良川へと合流し、日本海側へと流れています。

そこからわずか300mほど南を流れるこの川は加古川へと合流して瀬戸内海へ流れていることを、「水分かれ街道」を地図で見つけたときに気づき、いつか来てみたいと思っていました。

 

目の前にその小さな清流があり、そこから棚田に沿って資料館まで遊歩道が整備されていました。真新しい資料館は「氷上回廊水分れフィールドミュージアム」という名前で、昨年3月にリニューアルされたようです。

平日でしたが、数人が訪れていました。

資料館で一冊の本を購入しました。

 

分水嶺の上で生活する*

 

花嫁行列が「身分かれ」を嫌って迂回するといった話に、分水嶺周辺の地域のさまざまな生活があるのかと興味深く、その「森と水と人のふれあいの径 水分れ」という冊子を購入したのでした。

 

意外だったのは、以下の箇所でした。

 『石生の水分れ』が多くの人達に知られるようになったのは、ごく最近のことである。

 昭和六十三年四月北摂丹波の祭典を切っ掛けに、当局が「町おこし」の起爆剤にと、水分れ公園を整備し、PRに力を入れるようになってから、人々の関心を引くようになったのである。

 今から二百年程前の寛政六年発刊された「丹波志」の石生村の項に「地頭と領家との間に谷川あり。水分れ川という」。「水分れ」の文献史料としてはこれが初見である。

 地元の人達の間では石生の水分れは日本でも低い分水の一つであると言った程度のことは言い伝えてきた。

 

分水嶺とともに生きて来た歴史があるのかと思ったら、水分れが学問的に調査されるようになったのは大正時代に入ってからだったことが書かれていました。

 大正の初め頃、(旧制)柏原中学生が、地元で「さばじゃこ」と呼ばれていた雑魚を持参し、それが学校に標本として残されていたが、その後、その道の権威者田中茂博士によって研究され、これがトゲウオの新種として和名「ミナミトミヨ」と名付けられた。しかし当時、「ミナミトミヨ」が北流系の魚であるのに、なぜ南流系加古川の上流に生息しているのか異議論があり、疑問視されていた。その後、地元の熱心な先生方によって、南流系加古川上流と北流系由良川上流の生息魚について、採取研究が行われた。その結果、加古川に生息している北流系の魚は9種類、由良川では3種類の南流系の魚が採取された。こうして河川上流で、陸地を渡ることができない魚の移動・分散は、河川争奪による陸封や両洋峡によるものであると言われている。

 

私もここ最近、高校生まで実は分水嶺の近くに住んでいたことに気づいて愕然としているのですが、その地域にそれがどのような影響を与えているかと言った話は聞いたことがありません。

 

自分が生活する場所の、地面のこともほとんど知らないものですね。町おこしをきっかけに、これだけ専門的な視点で住んでいる場所を知ることができるなんてうらやましいと思いながら、遊歩道沿いのベンチに座って静かな山あいの棚田や家々を眺めました。

この氷上盆地では洪水が多かったそうです。

 

 

今度は是非、加古川水系から水分れ街道沿いに歩いて由良川水系まで歩いてみたいものです。

 

 

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