事実とは何か 86 吐き気にあるもの

気持ちの悪いタイトルですみません。

 

父の時代との相剋のような感情からそれなりに戦争について考えてきたつもりですし、一時期住んだ東南アジアのある地域では都市部から離れた地域では狂気を帯びた兵士による厳しい監視があり、テレビでは死の映像が日常的な状況でした。

 

その時にも感じたことがない吐き気が、なぜ今回の侵略の報道をみていると込み上げてくるのだろう。

 

*高木俊朗氏の作品*

 

ただ、似たような場面を何かで読んだ記憶があります。

 

20代の頃に読んでいた本の中だったと記憶を手繰り寄せていくと、たしか高木俊朗氏の本で、「ルソン戦記ベンゲット道」だったかもしれません。

詳細は思い出せないのですが、上官から何かを命じられた日本兵が吐くシーンがありました。

 

ストレスという言葉が医療関係で使われ始めたのが1970年代終わりごろから80年代ですから、この場面を読んだ時に戦争のような極度の緊張状態ではこういう吐き気があるのかと印象に残ったのでした。

 

あの戦争のあと、強い精神力と攻撃的なイメージだった軍人の別の面を描ける時代になり始めていたのかもしれません。

 

あの頃はまだWikipediaのように詳細な紹介を読む機会がありませんでしたが、ここを読んでやはりそうだったのかと思い出しています。

映画報道班員としての体験をもとに、新聞や放送の発表と現実の戦況の違い、戦場の過酷な有様の見聞等々、インパール作戦の悲惨さを明らかにして陸軍指導部の無謀さを告発することを決意した。

 

その後30代で訪ねたある地域で第二次世界大戦中に日本兵が田畑の作物を収奪し、教会を焼き払って行ったことを現地の人から聞いた時に、高木俊朗氏が同じような状況を本に書いておいてくださってよかったと思いました。

 

ただ、Wikipediaの「肯定的な評価」「否定的な評価」を読むと、ノンフィクションとは何か、立場によっても見方が変わりますね。

 

*戦争の禍根は何世代も続く*

 

現場の狂気に逆らえない兵士たちは戦場で吐き、そして戦争が終わると白を黒に、黒を白に変えさせられた後の長い人生を生きなければいけない。

 

時代が巡り、急激に戦争へと突き進んでいく社会の雰囲気になす術もなく、父に「なぜあの戦争に反対しなかったのか」という問いが今度は自分に向けられている。

何ができるのだろう、何もできない。ただ、事実とは何か、情報を追うことしかできない。

 

 

そして、どの社会も戦争が終われば平和になるのではなく、何世代にも禍根が残り続ける。

 

 

そんなことが一斉に湧き上がった吐き気なのかもしれません。

 

 

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