記憶についてのあれこれ 174 玉川上水沿いの幻の家

5月に玉川上水と羽村市郷土博物館を訪ねた散歩のメモを見つけ、またしばしここ三十数年来の玉川上水についての回想にふけっていました。

 

とりわけ、この場所の記憶が鮮明にあります。

交通量の多い喧騒の中の橋交差点から西側へと入り、中央高速の下をしばらく歩くと、鬱蒼とした木々の中を流れる玉川上水があります。

土手も脇の道も土のままなので、雨の後はぬかるんで大変そうでしたが、一歩踏み込んだらまるでタイムマシンで江戸時代に行ってしまったかのような風景がしばらく続いていました。

 

1990年代、そこにとてもおしゃれな家がありました。平家建てで、周囲がこの森のような場所に囲まれていました。

当時、私の知人の知り合いがそのあたりに住んでいました。

そばに中央高速が通っているのが信じられないほど、風で木々がサワサワという音と玉川上水の水音だけの世界になるのです。

 

「知人の知り合い」の方なので私は全く関係がなかったのですが、ある日そのおしゃれな家に一緒にお邪魔させていただいたことがあります。家の持ち主は不在でしたが、息子さんか娘さんが知人と同世代だったようです。

「松居さんの家」と聞いたような気がしていました。

 

和風の家でいながらモダンな作りが印象に残っています。

何よりもあの玉川上水のそばの森の中の一軒家のように感じる雰囲気がとても素敵でした。

 

11月4日、福音館書店の松居直(ただし)氏の訃報がニュースにありました。

突然、私のその記憶と家主が誰だったかがつながりました。この方のご自宅だったのでした。当時から「直(なお)」さんという女性だと勘違いしたままになっていました。

 

あの素敵な家は無くなってしまったのだろうかと思ったら、どこかに移築されているようです。

 

 

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