存在する 31 名前の漢字

奈良県の吉野川を見に行ったことで、最近「吉」という漢字をブログに書き込む機会が増えました。

 

日頃から出生証明書を記載する仕事なので、この場合の吉という漢字は「下の横棒が長い方だろうか、短い方だろうか」と気になってしまいます。

苗字だと両方が使われているので、ご本人に「戸籍上はどちらの字ですか」と確認し戸籍上の漢字を記載しなければなりません。

 

ご本人さえどちらかよくわかっていないこともよくあります。

また健康保険証の漢字と違っていることもあります。

日常的に正確に名前を確認しなければならない仕事であれば、あるあるですね。

 

 

*「吉」と「よし(土の下に口)」*

 

パソコンでは上の棒が長い「吉」にしか転換されなくて、長年の疑問であった「吉とよし(土の下に口)の違い」を初めて検索してみました。

 

三省堂ウェブ編集部による言葉の壺」というコラムに「人名用漢字の新字旧字」の第86回に説明がありました、と引用しようと思ったらこの題名さえパソコンでは書き写せません。「よし(土の下に口)」がないのですね。

 

さらに混乱したのが現在転換される「吉」の方が旧字で、「よし(土の下に口)」が新字だということでした。

 

自分の覚書のためにやはり書き写しておきますが、変換できない方は「よし(土の下に口)」と書いておきますね。ややこしくてすみません。

 旧字の「吉」は常用漢字なので、子供の名づけに使えます。新字の「よし(土のしたに口)」は、常用漢字でも人名用漢字でもないので、子供の名づけに使えません。「吉」と「よし(土の下に口)」は、単なる字体の差に過ぎないのですが、ここではあえて、「吉」を旧字、「よし(土の下に口)」を新字と呼ぶことにしましょう。

 

 昭和21年11月16日に告示された当用漢字表には、旧字の「吉」が収録されていました。この告示には、内閣総理大臣の名において官報に掲載されたのですが、官報に印刷された内閣総理大臣の名は「よし(土の下に口)田茂」でした。当用漢字表には旧字の「吉」を収録しておきながら、内閣総理大臣自身は新字の「よし(土の下に口)を使っていたのです。ただし、告示された当用漢字表のまえがきには「字体と音訓との整理については、調査中である」と書かれていました。当用漢字表の字体は、まだ変更される可能性があったのです。

 

たしかに「よしだしげる」とえば、私は「よし(土の下に口)」を思い浮かべますし、「吉田茂」だとなんとなく違和感を感じてしまいます。

たかが横棒の長さ、されど・・・ですね。

 

他にも「渡辺」の「なべ」が代表的ですが、「渡邉」「渡部」「渡邊」など複雑ですね。

人名を正確に確認しなければならない医療現場で40年ほど働いてきても、いまだに「え、こんな漢字を使うの?」「こんな苗字でこんな読み方があるの?」と驚くこともしばしばですが、ご本人にすれば、「私は渡辺ではない。渡邊だ」というくらいやはり漢字一文字の違いは「自分の存在に関わる」ものなのかもしれませんね。

 

ただ歴史にもしはないのですが、「よし(土の下に口)田」首相自らこれからの時代は名前に使う漢字も統一していこうと「吉田」を使う英断をされたら、未来にむけてだいぶ日本人の名前の確認方法も印鑑の制度も変わっていたのではないかと思えるような話です。

 

その後さまざまな議論を経て、「現在に至っても、旧字の「吉」は常用漢字なので出生届に書いてもOKですが、新字の「よし(土の下に口)」はダメなのです」となったようですが、これもまたなんだか混乱してしまいます。

 

 

名前に使う漢字の多さと複雑な読み方でいく通りもの可能性ができる不思議な日本人の名前ですが、どうやってマイナンバーで管理していくのかが関心があります。

個人識別番号があっていれば、多少、漢字や読み方が間違ってもその人だと認められるのでしょうか。であれば、すごいコンピューターのシステムですよね。

「夢のようなIT化」の前に、日本語の世界にはまだそれに馴染まない現実の問題がたくさんあるように見えるのですが。

 

 

書き慣れない漢字を間違わないようにと出生証明書に記載する厄介さと、その漢字でなければ自分ではないという葛藤はまだまだ続くでしょうか。

 

 

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