境界線のあれこれ 105 水の中の男女差、公平と自由

つい最近、2位、3位の選手よりもひときわ大きい体格の競泳選手が1位で表彰台に乗っている写真を見かけました。

2年ほど前から話題になった選手でしょうか。当時、アンチ・ドーピングという正義と信念の運動も吹き飛ぶぐらい、こういう方法での競技への参加について今後どうなるのだろうと思っていました。

 

 

*水泳の男女差はどこからくるのだろう*

 

男性から女性になって女性の競技に参戦するなんて「究極のドーピング」だと、最初の頃は思っていました。

競泳大会の結果を見ると、男女の記録の差は歴然としていますからね。

数年ぐらい前から、4種目を男女2名で組んだチームで競う男女混合リレーが取り入れられたのですが、これくらいが競泳の「男女差」に挑戦する限界だろうと思っていました。

 

ただし選手ではないごく普通に泳いでいる人たちを見ると、水の中ではあまり男女差や年齢差、そして体格差でさえ感じないことが多いです。

 

がっしりとした大柄な体格の筋骨隆々で陸上では太刀打ちできなさそうな男性が全力でキックしながら泳いでいる横を、中高年の女性がスーッと追い越していくこともあります。

あるいは背丈も違う大人がガシガシと泳いでいる横を、おそらく選手コースで水泳を習っている小学生がスイスイとアメンボのような軽さで抜いていきます。

このあたりは、泳ぎの技術かもしれませんね。

 

性別も年齢も体格も関係なく、水の中では自由度が高いことも私が泳ぎ続けている理由の一つです。

 

では、選手レベルになると何が違って、男女の泳ぎの差が出てくるのだろう。

最近、そんなことを考えながら泳ぐことが増えました。

 

*競泳レベルでの男女差はどこからくるのだろう*

 

Wikipediaリア・トーマス選手の「水泳選手としてのキャリア」に、ホルモン補充療法を始めてからの状況について書かれていました。

テストステロン抑制とホルモン補充療法を続けるうち、トーマスの身体からは筋量や筋力が失われていった。性別移行のための治療を受ける前と比較して、500ヤード自由はベストタイムから15秒以上も遅くなった。遠距離での競技成績は2019年がピークであり、2021-2021年シーズンの記録は低迷した。短距離種目では、2021-2021年シーズンの序盤ではタイムが落ちたものの、その後2021年には100ヤード自由形でほぼ自己ベスト記録を達成し、50ヤードでは個人の自己ベストをだした。

 

2018-2019年シーズンでは男子チームに所属し、個人成績は200ヤード自由形で554位、500ヤード自由形で65位、1,650ヤード自由形で32位だった。2021-2022年シーズンでは女子チームに所属し、200ヤード自由形で5位、500ヤード自由型で1位、1,650ヤード自由形で8位になった。

 

女性になっても男性だった時期よりも自己ベストが出たり、全米の男女別の順位の変化を見ると女性としてはこれだけ上位になるのかと驚きましたが、圧倒的に強いというわけでもなさそうですね。

2022年、トーマスはNCAAディヴィジョン1の全米選手権で女子500ヤード自由形を4:33.24のタイムで勝ち、全競技を通じてNCAAディヴィジョン1で優勝した選手で最初の、トランスジェンダーであることをオープンにしたアスリートとなった。この大会でオリンピック銀メダリストのエマ・ワイアントはトーマスに1.75秒差の二位だった。ケイト・ダグラスがNCAAの記録を18回更新した一方で、トーマスはNCAAの試合では何の記録も更新することはなかった。実際、、トーマスが優勝したタイムはケイト・レデッキーが持つNCAAより9.18秒遅い。200ヤード自由形の予選で、トーマスは2位におわった。決勝では1:43.50のタイムで5位だった。100ヤード自由形では10位で予選を通過し、決勝では48.18のタイムでファイナリストで最下位の8位に終わった。

 

レデッキー選手は身長183cm、トーマス選手もほぼ同じくらいのようです。

筋力でも筋量でもない、男性から女性になってどのような泳ぎの変化になったのでしょう。

 

国際水連の決定*

 

昨年6月に国際水泳連盟が、この問題に対して境界線を引いたようです。

国際水泳連盟FINA)は19日、トランスジェンダーの選手について、男性の思春期をわずかにでも経験した場合は、女子競技への出場を認めないことを決めた。

FINAはこの日、世界選手権大会が開催されているハンガリー・ブタペストで臨時総会を開き、新方針を決定した。

性自認が出自の性別と異なる選手のため、大会において「オープン」というカテゴリーの設置を目指すことも決めた。

新たな方針は、FINAのメンバー152人の71%の賛成で可決された。FINAは、トランスジェンダーの選手の「完全参加に向けた第一歩に過ぎない」とした。

新方針に関する34ページの文書は、男性から女性になったトランスジェンダーの選手でも、「タナー段階2(身体的発育が始まる時期)以降の男性の思春期をまったく経験していないか、12歳前の、どちらかであれば、女子のカテゴリーの出場資格があるとしている。

 

国際水連トランスジェンダー選手の女子競技への出場を禁止」(BBCニュース、2022年6月20日

 

 

パンドラの箱を開けたのか、それともより自由で公平な世界へとまた人類は進化するのか。

人類というとらえかたの究極の理想に対して、さまざまな葛藤と反動で議論を重ねながら、どういう方向に進むでしょうか。

 

ただ、欧米のと一括りにしてよいのかわからないのですが、我こそは正義、あるいは自由は認められるべきのような推しの強さがどんどんと世界を変化させていきますね。

本当にそれで良いのだろうかと逡巡することも増えました。

 

そのうち、女性から男性になって男性の競技大会に挑む人も出てくるのでしょうか?

その方向の可能性は少なさそうですが。

 

「公平」とか「自由」ってなんだろう。

こういう葛藤を経て、また一世紀後には何か普遍的なことを得ていくのかもしれませんね。

 

 

 

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