水のあれこれ 361 中世に流れを変えた浜名川

遠州灘に沿ったおそらく自然堤防と思われる場所と北側の丘陵地帯の間を流れる浜名川が水色の線でまっすぐに描かれ、水路の北側へと何本も分水されているように見えます。

 

実際に歩くと川らしい流れも見えず、もしかすると豊川用水から分水された湖西用水がパイプラインで通っている比較的新しい人工の川だろうかと想像しました。

田んぼはなさそうで、キャベツ畑とところどころ葦が茂っているようです。

東海道五十三次の時代だと、ここはどんな場所だったのでしょう。

 

 

 

*「中世まで現在とは逆に浜名湖から西へ流れて遠州灘へ注いでいた」*

 

地図では細い浜名川が大倉戸海岸のあたりの地域から流れ出て、旧東海道が通る高台の下をゆるやかに蛇行しながら流れたあと途中で分かれて、1本は東海道新幹線の車窓から見える船溜まりの近くに合流し、もう1本はそのもう少し下流で合流して浜名湖大橋と西浜名橋にはさまれた浜名湖の出口のあたりへと流れているように見えます。

 

ただ、よくよく見ると「浜名川が2本に分かれている」よりは、船溜まり側から来た運河が交通公園のあたりで分かれていて、川合の角度が逆のように見えます。

訪ねる前から「ここの水の流れはどちらなのだろう」と気になっていました。

 

散歩の記録を書くために「浜名川」で検索したところ、頼みの綱のWikipediaはなさそうでしたが、「1498年明応地震による遠州灘沿岸浜名川流域の地形変化ー掘削調査による地質学的検討ー」(「歴史地震」第25号(2010))が公開されていて、昔からあった川だったことと、その疑問に思った流れについて書かれていました。

 

1. はじめに

 明応七年八月二十五日(1498年9月11日)に発生した明応地震(M8.2~8.4;宇佐美、2003)については、静岡県三重県で湊町が津波などで被害を受けた記録が残っている(矢田、2005,2009). この津波によって浜名湖南岸では大規模な海岸侵食が起こり、浜名湖遠州灘を繋ぐ「今切れ口」が開いたことは通説となっている(都司、1979;静岡県1996). 明応地震による津波堆積物も静岡県と愛知県の県境に近い湖西市長谷元屋敷遺跡(図1)などから報告されている(Komatsubara et al.,2008 ). しかし、歴史記録自体が少ない古い時代の地震であるため、この地震による地形や人の暮らしへの影響について具体的な証拠はない。

 

「今切れ口」と地震の影響、たしかブラタモリで知りました。

それまで浜名湖のあの場所について、私自身が何も考えたことがないままきたことにちょっと驚いた記憶があります。

 

その明応地震がどうやら浜名川にも影響があった可能性があるようです。

 

 明応地震津波の影響が疑われる例の一つとして、浜名湖遠州灘をつないでいた浜名川の地形と流域の集落の変化がある。浜名川は静岡県西部の新居町を東流して浜名湖南端へ注ぐ小河川である(図1)が、中世まで現在とは逆に浜名湖から西へ流れて遠州灘へ注いでいた(例えば、榎原, 2008). 

これが、川が二手に分かれる川合にしてはなんだか角度が変だと感じた理由でしょうか。

 

 

*「中世には砂丘に閉塞された氾濫原」*

 

遠州灘の海岸線の松林と旧東海道に挟まれた浜名川の周辺の畑と葦が茂っていた地域は、かつては浜名川が今とは逆の向きで浜名湖側から流れ、「中世には砂丘に閉塞された氾濫原」だったことが書かれていました。

 

2. 浜名川の地形

 浜名川は、北側の更新世後期の海成段丘(天伯原台地:杉山,  1991)と南側の砂丘列との間を流れる小河川である(図1). 海成段丘と低地の境界は比高50m前後の崖になっている。現在の浜名川の両側には旧流路と後背湿地からなる幅300~500m程度の氾濫原が帯状に伸びている。北側の段丘から発する小谷がこの低地に注ぐ場所には、しばしば小規模な扇状地が形成されている. 低地の南北両側には比高数mの微高地になっている.  北側の微高地には日ヶ崎などの集落があり, 東海道が通っていた. 南側の砂丘やそこから低地へ続く微高地には、中世までの遺跡が分布する(新居町教育委員会, 1998). つまり、中世には砂丘に閉塞された氾濫原が出来上がっていた.

 

落ち着いた街なのは旧東海道沿いだからだろうかと思ったのですが、もしかするとそれよりも前の砂丘に閉塞された氾濫原を開墾し、川の流れが変わるほどの地震などを乗り越えてきたことが理由だったのでしょうか。

 

そして、あの日見た風景は専門用語で表現するとこうなるのかと、学問とは気が遠くなるような時間をかけ、正確性を突き詰めていくことに圧倒されました。

 

もう少し、この浜名川が流れを変えた時代の様子を知りたいと思うのですが、いつかまたその答えに出会うでしょうか。

 

 

 

 

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