見ると幸せになるかどうかは私が勝手に決めたのですが、6月に入ると目を皿のようにして下を向いて歩きます。
今年は6月5日に初めて出会いました。
だいたいは土手や空き地なのですが、今年は近所の酒屋さんの植木鉢の中に一本だけすくっと咲いている、意表をつく出会いでした。
人為的に栽培できるものなのか、それともたまたま種がそこにたどり着いたのでしょうか。
今まで見た中では一番濃いピンク色で、右巻きのネジバナでした。
20年ほど前に初めてこの花の存在に気づきました。定点観測というほどではないのですが毎年気にしているのに、どんなふうに成長しているのかを見逃してしまいます。いつもすくっと伸びて花が咲いていたところで気づいて、「やられた」という感じ。
そして「あの場所なら咲いていそう」という推測も当てにならず、不意打ちのように目の前に現れるのでした。
今年はネジバナが群生している場所を訪ねてみたいなと思って検索すると、「皇居外苑」がありました。
芝と松のイメージですが、お堀のそばなら咲いているかもしれません。
ということで先日出かけてみました。
*桜田門から東御苑へ*
半蔵門線桜田門駅からスタートしました。平日でも国内外からの観光客がたくさん歩いていましたが、広大な敷地だからか、みなさん静かに散策されるのか、砂利を踏みしめる音がするだけの静寂さです。
下を向いて土手や地面を眺める怪しい人になりながら外苑を歩きましたが、やはり整然と手入れされた芝と松の間にはネジバナが育つ隙がなさそうです。
もしかしたらあの場所なら咲いているかもしれません。昨年9月にツルボを探して歩いた時にも広大な北の丸公園では1本も見つけられなかったのに、そこに一歩踏み入れたら幻を見ているかのように群生していました。
今回は大手門から入ってみることにしました。入り口の手前あたりのお濠端に、ネジバナを見つけました。これは期待できそうです。
手荷物検査を受けて入ると、中はさまざまな国の大勢の人が散策しています。
東御苑管理事務所と彫られた石の前に、なんと左巻き、右巻きそして直列の3種類が揃って咲いていました。
これは奇跡ですね。
ここからはネジバナがあちこちに咲いていました。3種類の巻き方が一緒の場所に生えていたり離れていたり、色も濃かったり薄かったり、混在していてそこには法則性がなさそうにも見えます。
茎が太いものもあれば細いものもあり、背丈も低いものもあれば高いものもあって、「ネジバナ」にも多様性と個性があるようです。
散策している「ヒト」たちと同じですね。
ここにもあちらにも咲いています。もうこれだけで1年分以上をみることができました。
ここから坂道を登って、江戸城本丸御殿跡に行ってみました。真ん中は芝生があって、ここもたくさんの人が散策したり芝生やベンチに座っていますが、静寂です。
不思議と、坂道を登ったあたりからネジバナを見ることがなくなりました。
繁殖の条件は何が違うのでしょう。
果樹古品種園やバラ園、紫陽花などを眺めて、もうネジバナはなさそうと思ったら、天守台の石垣のそばにまた群生していました。
つられるように天守台の上まで歩く間にも、石垣の上にぽつんぽつんとネジバナが咲いています。
広大な庭園の向こうに見える丸の内のビル群が遠く感じられます。
天守台の上にはたくさんの人がいたのですが、みなさん静かに風景を楽しんでいました。
あの人間に無用なおしゃべりをさせないような明治神宮の森に似ていますね。
近くの建物から笙の音が聞こえてきました。
その坂道を下りると二の丸雑木林です。ツルボが群生していたように、ネジバナも咲いていそうですから歩いてみることにしました。
前回はツルボに気を取られていたので気づかなかったのですが、小さな小川がありその先に菖蒲田と二の丸池がありました。ちょうど菖蒲が美しい季節で、ここもまたたくさんの人が静かに歩いていました。
そしてその周囲にはあちこちにネジバナが咲いています。
ネジバナをたどりながら歩いていると、平川門に出ました。
西日にお堀の水が輝いていて幻想的でした。
昭和天皇が東御苑に雑木林を造られ、そして三代をかけながらさまざまな国からの人々が平和と植物を楽しむ場所になった。
なんだかしんみりと、でも静かな幸福感に満たされたのでした。
*おまけ*
この日にあの見ると幸せになる奇跡のドクターイエローが引退するというニュースがあったのは、出来すぎかのような偶然でした。
寂しいなあと思うとともに、「見ると幸せになる」ものが次々と出てくるこの頃です。死ぬまでに知り尽くすことのできない程、すごい世界に生きていますからね。
「散歩をする」まとめはこちら。