車窓から見える東京拘置所はとても大きな建物で、小さな窓と金網に囲まれた屋上の運動場を見るたびに、どれくらいの人がどんな罪を犯してあそこにいるのだろうと緊張しながら通過していました。
実際に歩くと想像もしていなかった美しい親水緑道があり、そばまで落ち着いた住宅地があり、たくさんの人が生活をしています。
見る角度によって、風景というのは違うものですね。犬養元首相のお手伝いさんの話を思い出しました。
真面目に正直にそして慎重に生きていれば犯罪や罪とは無縁と思っていても理不尽なことが起こるのが人生ですが、幸いながら刑務所とは無縁で来れたので、つい最近まで「東京拘置所」と「小菅拘置所」が混乱していました。
あの車窓にあるのは「小菅拘置所」だと記憶していて、東京拘置所とは別だと思っていたのですが、たぶん数年前に綾瀬川を歩こうと地図を眺めていた時にここが東京拘置所ということを知ったのだっと思います。
その時にWikipediaの東京拘置所の「沿革」を読んで、その歴史を少し整理できました。
私が1970年代終わりの頃に初めてパスポートを取得したのは1978年にできたばかりの池袋のサンシャインビルでしたが、そこはかつては巣鴨プリゾンだったことはなんとなく知っていました。
そこがかつては東京拘置所で、1971年に小菅に移転したようです。
*伊奈氏の邸宅からの小菅の長い変遷*
数年前は読み飛ばしていたその「前史」が、今回の散歩の後に目に入りました。
前史
江戸時代初期は関東郡代伊奈氏の邸宅があった。江戸時代中期になると、将軍家鷹狩り時の休憩所である小菅御殿が設けられた。小菅御殿の名残として庭に置かれていた石灯籠(葛飾区登録有形文化財)と手水鉢、庭石が拘置所官舎敷地内に移設されている。
(「東京拘置所」「沿革」、強調は引用者による)
なんと、荒川の治水や新田開発から利根川流域の治水・利水そして新田開発と、まさに関東平野を作り上げた伊奈家ゆかりの地だったとは。
綾瀬神社に氷川神社が合祀されていた歴史をもっと知りたくなりました。
*苦役の一つとしての煉瓦製造*
明治以降は、小菅県の県庁、そして「東京府に変わると日本初の煉瓦工場が建設された」とあり、「小菅刑務所」にはこんなことが書かれています。
1878年(明治11年)、内務省は囚人に与える苦役の一つとして煉瓦の製造に従事させることができるのではないかと判断、県庁跡に小菅集治監を設置した。翌1879年(明治12年)、刑務作業としての煉瓦製造が始まる。その後、小菅監獄を経て1922年(大正11年)、小菅刑務所と改称した。
裏門堰親水緑道との間に残る煉瓦の壁は、いつ頃どんな罪を犯した人たちによって造られたものだったのでしょう。
そして、かつては伊奈家の屋敷だったり県庁があった場所に刑務所が作られる。当時のこの地域に住む人たちの生活にはどんな変化があったのでしょう。
そしてあの壁の中で生活した人たちは、何を考えたのでしょう。
罪を償うというのはどういうことなのでしょう。
*日本最大の規模を持つ*
あの建物の中にはどんな罪を犯した人たちがいるのか、刑務所の歴史やその機能も知らないことばかりでした。
被収容者
・刑事被告人
・懲役受刑者(本所執行受刑者及び他刑務所への移転待ちの一時執行受刑者)
・死刑確定者(死刑囚)
・労役場留置者(罰金又は科料を完納できずに検察庁より拘束された者)
・被疑者(警察以外の捜査機関において逮捕され勾留中の者)
・引致状による留置者
・少年受刑者
収容定員
・3,010名 刑事被告人を収容する施設では、日本最大の規模を持つ。
伊奈氏の屋敷跡が、数世紀後には拘置所と刑場になったとは。
*おまけ*
「特記事項」の最後を読んで、ああ、いつもニュースになる場所はここだったのだとつながりました。
・一般的な保釈は、面会所のある裏門から目立たぬように行われるが、1976年に田中角栄が保釈された際には、拘置所の周りを報道陣の他一般人の見物人も多数取り囲んだことから正面玄関を使用せざるを得ない状態となった。
それにしても、田中角栄氏が収監されていた時代に比べて最近は政治家が捕まることが少なくなりましたね。
「汚職事件」「収賄罪」という言葉も心なしか聞かれなくなったけれど、もっと悪どく立ち回っているような気がするこの頃ですね。
罪と罰との境界線が意図的に変えられていったような時代に生きているような気がするのですが。
聞こえてくるのは政治家本人ではなく、秘書とかその周辺の人たちのことばかり。
「禊は済んだ」なんて勝手な理屈を見逃さないようにしなければと、東京拘置所の建物を車窓の向こうに眺めました。
裏門から保釈される「一般の人」は、目の前に広がる森のような美しい五反野親水緑道が目に入るでしょうか。心洗われるような風景が。
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