水のあれこれ 385 地下水は土地の従属物ではなく市民全体の財産

四条市の「うちぬき」というのは観光名所だと思っていたら、現在も住宅地のあちこちに水が湧き出て、干拓地を潤し続けていることを知りました。

 

Wikipedia「うちぬき」の「概要」を読むと、生活用水も不自由しないぐらいほどのようです。

西条市街地の湧水はあまりにも豊富で生活・産業用の水需要を十分に満たせるため、中心市街地等については公共下水道は整備されているが、上水道は整備されない「計画外区域」となっている(このようなケースは日本全国の自治体でも稀有である)。

 

地図で見つけた、干拓地があるのに河川が少ない地域そして瀬戸内海気候で雨が少ない地域が、むしろ全国でも少ない、水が豊かな場所だったようです。

そしてうちぬきについてのさまざまな説明を読むと、帯水層に恵まれただけでなく、断層により大きな地下のダムのような構造になっているようです。

 

さすが水に恵まれた自治体だけあって、市のホームページには「水の歴史館」というサイトがあり、うちぬきの歴史や地下水について知ることができました。

 

 

*地下水は誰のものか*

 

うちぬきについて検索していたら、地下水学会の50周年特集号資料が公開されていました。

参考のために全文書き写しておこうと思います。

 

「水の都・西条市」の挑戦 地域の水の統合管理を目指して

 

  要  旨

 愛媛県西条市は自噴水「うちぬき」等、良質な地下水が住民の生活の糧として現在も利用されており、自家用水(上水道ではなく各戸が井戸を使用)の家庭が50%を占めています。

 この地下水は地下20m~50mの比較的浅い帯水層から汲み上げられていますので、将来懸念されるその水質・水量を保全することが行政の最重要課題となっています。

 地下水の動きを解明する為に、西条市は過去および現在に科学的に緻密な地下水資源調査を行なってきました。

 西条市民は、水資源を"共有"するのではなく、市民全体で"総有”するものであるとの理念のもとひ利用してきました。

 そして、これらの"理念”や”きまり”を明文化し、さらに地下水を「公水」として捉えた地下水の保全条例策定を目指していきます。

 西条市の強みは、地下水の涵養域から利用域までがほぼ同じ行政区にあるということです。水の都西条市の取り組みをご紹介します。

 キーワード:うちぬき、地下水保全、水質、水量、総有

 

 

 愛媛県西条市は古くから「水の都」と呼ばれてきました。その名称は、イタリアのベネチアのように水が豊富な風景を意味するのではなく、「うちぬき」と呼ばれる地下水の自噴水が住民の生活に取り入れられ活用されてきたことに由来しています。西条市は約400年前から干拓事業で拡大した町です。干拓事業を支えたのは地下水であり、先人は、干潟の海底湧水を生活用水や農業用水、工業用水として利用するとともに、ある時は自噴する地下水が土壌を洗い流す役目を果たしてきました。現在も、上水道普及率は50%と低く、多くの家庭は自前の地下水の水源を持ち、生活用水として利用しています。また、上水道施設の水源も地下水が99.5%を占めています。どの水源も比較的浅く、地下20メートルから50メートルの帯水層から取水しています。以上のように、まさに西条市は地下水に育てられてきた町であり、地下水質並びに地下水量の保全は市民生活の安全、安心、健康を守る最重要の行政課題です。

 地下水の謎を解くために、1954年頃から電気探査などの科学的地下水調査が行われてきました。また、1973年に主要河川に黒瀬ダムが建設されてからは、河川の表流水と地下水位の連続観測を継続して行なってきました。さらに、1996年から1999年には、地下水賦存量の解明を目的とした地質学的なアプローチによる市内東部の地下水資源調査、2006年からは水文・水質調査を開始し、現在も継続中です。以上のように、見えない地下水の動きを科学的に解明する事業を展開しています。

 西条市は、これまで水循環を根幹にしたまちづくりを進めてきました。その結果、地下水資源の枯渇、汚染や地盤沈下などのいわゆる”コモンズの悲劇”を経験することもなく、現在も成長しています。しかし、最近一部の地域では地下水の塩水化や農業生産に伴う硝酸塩汚染の兆候が出始めています。今までのまちづくりの方針は、①水資源は売らないで地域で活用するものである、②歴史的な経験で学んだ地下水の涵養域には水質汚染の可能性のある企業や大量に地下水を利用する企業の進出を認めない、③農業用水の乏しいところでは「水番」などの制度により、水資源の有効な利用を図るなどであり、水資源は”共有”するのではなく、市民全体で”総有”するものであるという理念のもとに取り組んできました。総有と共有の大きな違いは、総有は①分割することが出来ない、②その地域において、社会的なつきあいや義務を果たすことで初めて得ることができるという2点です。この考え方は、漁場や入会林を運営することと同じで、文章化されることもなく、脈々と引き継がれてきました。私たちは、複雑で今までに法律に成り得なかった「水を守ってきた慣習」を「条例」という形で明文化し、未来へ繋いでいこうと考えています。しかし地下水は土地の従属物としての「私水」ではなく、市民全体の財産である「公水」という考え方に立たなければ地下水資源の保全は難しいと考えられます。市民の理解を得るためには、まず水の循環や地下水の動きを科学的な調査で視える形にし、議論を深めていかなければなりません。その点で、西条市は河川の水源から河口までがひとつの行政区域にあるという特徴を生かして、河川の表流水と地下水の循環を明らかにし、統合的水保全対策を行うことができるという強みを持っています。西条市は、地下水資源の精密な科学的調査結果を得て、ようやく持続可能な地下水保全に関する政策提言を行えるスタートラインに立ったところです。

 

(地下水学会誌 第52巻第1号 75~77 (2010年)、強調は引用者による)

 

1990年代初頭ごろから「コモンズ」という言葉をよく耳にするようになりました。

 

その当時は現実的な問題や専門用語が、こうしたふわりとした「文学的表現」に置き換えられているかのように感じていたのですが、「コモンズの悲劇」という経済学の中で失敗の法則化の試みがあったことを知りました。

 

1950年代から地下水の科学的な調査を積み上げ、時間をかけて慣習を明文化し、地下水は土地の従属物ではなく市民全体の財産とすることで、あの西条市の豊かな風景があるのですね。

最近の経済の風潮とは対極にあるような気がしてきました。

 

 

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