お米の価格はどうやって決まるのだろう、なぜ昨年から急に2倍になったのだろう。
そして生産者や集荷業者あるいはJAの方々は、急激に価格が上がったことで、日々、どのような変化と直面されているのだろう。
その点だけを知りたいのですが、さまざまな声が多すぎてよくわからない状態へ。
ただ1点、見えてきたのは腫れ物に触るかのように「米の先物取引の影響」については何も語られないのが不思議だなあということです。
戦争が起きたり大統領の一言で主要な物の値段が変動し、皆さん固唾を飲んで数字の動きを見守っている雰囲気になる投機・投資の世界なのに、米には影響しないのでしょうか。
*「2011年の試験上場」前の全国アンケート*
検索していたら、米先物取引に関する「農業者」「集荷業者」「JA」に対する全国調査の結果が公開されていました。
昨年行われたのかと思って読んでいると、「19年からの集落営農の推進にも影響が出るのではないか」「コメ価格センターでの価格による相対取引で、適正な流通を確保している」「試験上場とは言え、自由市場の拡大を前提としているので、生産調整を実施していることへの理解が得られない」といった意見から、2011年に72年ぶりにコメ先物取引が再開(試験上場)される以前、2000年代半ばのアンケートのようです。
そして当時は「コメ価格センター」というものがあったようです。
コメ価格センターは、全国米国取引・価格形成センターの略称で、1990年に財団法人自主流通米価格形成機構として発足しました。その目的は、自主流通米の指標価格を形成し、米国取引の円滑化に資することでした。
センターは、自主流通米の入札やインターネットを用いた取引などを実施し、取引業者を公開していました。2011年には、取引の低調により解散しました。
(Google)
この流れからの2011年からのコメ先物取引試験上場だったのでしょうか。
その先物取引も低調で2023年には終了したはずなのに、2024年に復活したのはなぜだろう。
しかも廃止の決定をした政府を経済や金融に無知だと罵倒してまで再開し、その結果がどうなのかは誰も語ろうとしない。
不思議な世界ですね。
*2000年代の先物取引に対する「預言」のあれこれ*
公開されていたのは「問3」「問4」で、その設問自体はわからなかったのですが、「理由・意見等の内容」を読むだけでも当時から生産者・集配業者・JAは相当危機感があり先を見越していたことが感じられる答えでした。
例えば「問3 全国・農業者」の答えの一部はこんな感じです。(以下、抜粋。強調は引用者による)
・米は食糧政策(生産調整)の根幹をなすもので、先物取引の材料では混乱を招く。
・試験上場とは言え、自由市場の拡大を前提としているので、生産調整を実施していることへの理解が得られない。
・先物取引は生産調整に参加する者のメリットや品目横断的経営安定対策の制度に反する。
・先物取引で転売や買い戻しが大量に行われると需要予測等が狂いやすくなり、市場価格が混乱する恐れがある。
・先物取引の導入は、WTO交渉における米の関税引き下げを前提としたものに思え、その為、米の輸入量増大により、19年以降の米政策の混乱が予想される。
・取引での決済についてはどうでもいいのですが、先物はまだ収穫されていないものの値決めをし天候等の要因により価格が乱高下したり上昇したりします。このことにより主食の安定供給という趣旨が脅かされることにより、消費者や生産者にとってハイリスクをうけ、農業(自然を守る)に壊滅的打撃を与えかねない。
・価格変動が大きく農業経営に悪影響。
・先物取引では消費者の信頼を得ることは難しい。
・農家所得の増加になるとは思えない。
・生産者価格の安定のための生産調整が相場によって不安定となり意味がない。
・国民の主食である米が相場によって不安定になり、消費者も不安となる。
「全国・集荷業者」の答えはこんな感じです。
・生産調整の努力を無にし、生産現場を混乱させる。
・生産調整と先物取引は併存しない。
・現物との整合性(価格)について疑問。先物の価格が高い場合には、実施者が減ると思う。
・米価の下落と経営への不安。
・水田離れが更に進む。
・生産調整のもとでの先物はどちらもうまくいかないと思う。
・生産調整の実施と農業の担い手減少の中、生産及び生産意欲を促進させる制度とは思えない。
・需給システムが崩れ生産現場を混乱させる。
・「農家の自己責任」で流通してしまうと、全体供給のバランスが崩れる。
・生産調整が有名無実化し、生産意欲がなくなり農家の減退が加速する。
・売れる産地と売れない産地間で生産調整実施の地域間格差が広がる。
・需給のバランスが崩れ、国が進めてきた米政策に逆行する。
・特定ブランド米に買いが集中し、その価格が高騰する。
・コメ価格操作の恐れがあり、生産者に著しい不安が広がる。
・米の実販売でなく、マネーゲーム化で価格変動が大きくなる。
・先物取引よりその年度の参考となる価格が決まってしまう。そのために現在生産調整に参加する農家及び参加しない生産者の取組が大きく変化する。よって価格及び生産数量において不平等感が今以上に生まれると思われる。
・規制緩和が進み、若い人が農業離れしている中、そしてやっとの思いで細々と親の代の農業を営んでいるのが現状。完全に自由取引に移行していない中、先物取引は適当ではない。
・今後も異常気象による作況の波乱が予想される中、この市場に商社、投資会社、一般投資家が入り込み、投機化になり農業経営者の参加も差損が生じる懸念があり、今後の生産調整にも影響が出ます。ここ1~2年のコメ改革の動向を見据えてからでもいいかと思います。
・現物の売買には関係のない投機的な資金が入り、価格の急上昇、または投機的なカラ売り等価格の急変動が起こり、集荷業者、生産者等の経営の安定に支障を及ぼす可能性がある。
・本来商品取引は、需給だけでなく、政治や社会情勢、ヘッジファンド等の投機圧力により価格が決まります。そのような要因により決まるため、生産調整は無力になる可能性があります。また、需給が長期低落傾向にあるため、先物取引はそれを助長するはたらきになると思います、購入する例は有利になりますが、生産者のリスクヘッジにはならないと思います。
・投機等の対象になりやすく、生産者の生産意欲と生産調整等の意欲に支障あり。
・産地間競争の激化によって、価格が崩れる
・需要と供給以外の要素で不安定な価格相場を作り出すことになる。
そして「全国・JA」は以下の通り。
・国が先物取引を認めることは、生産調整の意味を否定したことになり、農家への生産調整に対する理解・協力が得られなくなる。
・集荷円滑化対策の維持が困難となる。
・実際農家が使うはずもない先物市場を開設し、好きな人は勝手に売っていいよというシグナルを送られては、生産調整参加農家にとっては、何故我々だけまじめにやるのか、という反応になり間違いなく大混乱になる。
・生産現場では血の滲む努力で生産調整を図っており、需給均衡のために区分出荷まで実施している。米の先物取引という需給実態に乏しい取引により、価格が乱高下し生産現場に混乱と生産調整システムの破壊を招くことが必至と考える。
・当JA管内では約1,300戸の生産者による取組により生産調整が実施されているが、18年産においても生産目標数量が減っているなかで、米の価格をできる限り維持・安定させることを共通の目的として米の生産調整や過剰米処理対策等を行なっている。国が米の先物取引を認めることは、生産調整を否定してしまうことであり、生産者の生産調整に対する理解は得られなくなる。また今まで生産調整を推進してきた努力を無にし、生産現場を混乱させるものである。
・先物取引を導入した場合に、現物の価格形成を乖離した場合、生産現場に対して誤った市場シグナルを与えてしまい、生産現場や流通が混乱する。現在、生産調整や過剰米処理などの取組を進めているが、これらの対策に支障が生じてしまう。
・生産調整の意義は需給と価格の安定を図り、地域の農業を守ためであり、このことにより生産現場において生産調整に否定的な人達も説得しながら参加を求めてきている。東京、関西穀物商品取引所の申請の本質はわからないが、予測されることは買い手側の事情(利益のみの追求)だけではないか、国が認可した場合、売り手(生産者)サイドに混乱を発生させて、今後の米の生産と流通、そして需給バランスに大きな影響を与えることとなる。
・国が米の先物取引を認めることは、平成18年産生産目標量が減っている中で我々が生産者に理解を得ることに努力をし、「担い手育成・確保」「需給と価格安定」を図ろうと、生産調整を推進してきた中で、現場での努力に対し、あい反する制度であり、今後、現場における農家、生産者に対し、生産調整への理解は得られないし、不安と混乱をまねき集荷円滑化対策等の「米政策」に対する理解どころか後退することが懸念されます。
・米は、生産調整を行わなければならないほど、国内では過剰傾向にある作物であります。このような情勢の中、価格が先行する先物取引が行われた場合、米生産農業者は、価格の変動により相場がよければ次年度は米に作付けが偏ることが予想され、又、逆の場合は米の作付けが減少し安定生産ができなくなるのでは。いずれにしても現在の生産調整のルールが崩壊し、ひいては日本の米の安定供給に影響を及ぼすことが予測されます。
・コメ価格センターとの関係がどうなるのか見えない。生産調整の取り組み視点がかわり今までと全く違う動きが出るのではないか。先物取引は他の商品とちがい水田農業の担い手の育成・確保にはつながらず支障をきたすものと思う。
・先物価格のシグナルにより、生産調整が混乱し、生産調整、過剰米処理、担い手育成確保が崩れる。
・「高ければ作る、安くなれば作らない」となる懸念があり、主食たる米には向かないと思う。
・先物取引となれば利益を中心とした考え方による価格となり自然な需給状態は保たれず価格は価値へと変わり一番大切な生産者育成、担い手、経営の安定はなくなる。単なる金や、企業株といった一部の人のための投資商品となってしまいます。
・大手商社等の投機的面が大きくなり、農業経済で混乱する。
・米づくりの本来あるべき姿の実現(需要に応じた米づくりの推進)に関係者が一丸となって努力していることを否定するもの。
・昭和より生産現場においては行政を通し農協も強行に推進してきた。農家の理解を得ることに努力してきた、それに対し、国が米の先物取引を導入、認可するということは、昭和46年以降行ってきた生産調整の考え方を根本的に覆し、生産現場も確実に混乱する。
・大手買い手に相場を操られ、生産意欲の低下による生産調整機能の低下となる。
・先物取引による相場水準が価格形成と乖離した場合、生産現場に対する誤った市場シグナルを与えかねず、生産現場が混乱する。
・先安の相場となった場合、売りが殺到し、流通が混乱し、値下がりを増長させることから、生産調整や過剰米処理等の需給安定対策に支障を生ずる。また、投機的な先物取引に巻き込まれる可能性もあり、農家経営・JA経営への影響を与えることが懸念されるとと、鬼、集落営農推進計画に多大な障害となる。
・一般投資家の参入により大きく価格変動が起こる可能性がある。
なんだかまるで「今現在」を預言していたかのようですね。
全ての意見を引用できないのですが、まさに今の現状かと思うことを20年前にはすでに農家・集荷業・JAの方々はそれぞれの立場から予測されていたようです。
72年間米の先物取引が行われていなかった理由は、失敗が農業の中できちんと語り伝えられていたからこそだと思える内容でした。
それなのに政府は試験上場の後一旦廃止した堂島米先物取引を1年後に再開した。
それを「ハシゴを外す」というのですよね、医療も何度も直面してきましたから。
そしてその背景には常に骨太に取り込まれた政治家の存在があることも見えてきました。
自民党だけでなくほとんどの政党もマスコミも農業や経済の「専門家」も、今回の混乱と先物取引について言及しないのは、素人にはわかならない「市場のシグナル」を様子見しているか、あるいは失敗を認めたくないからでしょうか。
国民の生活も知らず政治家で居続けることが目的の人は、物事の本質や解決からはねじれてつじつまが合わなくなっていきますからね。
このアンケートを読んだだけで、米の先物取引についてだいぶ勉強になりました。
そして先物取引というのは学問には馴染まない手法なのだろうと。
それにしてもなぜ、このつじつまのあった「預言」が今回の騒動では全くニュースから聞こえてこないのでしょう。
不思議な世界ですね。
*「お米を投機的に扱わないために」*
この数ヶ月、だいぶお米について書いた記事がたまったので、ここにまとめておこうと思います。
<2024年>
<2025年>
「気持ち」や「正しさの主張」と、「考え方をすり合わせる意見」
「日本人は米を食べ続けてきた」のではなく「食べたいと思い続けてきた」
「お米を食べたい」と思ってきた長い歴史を思いながら微高地を散歩する
「米の値段が倍になって消費者が買えなくなったのは災害と何が違うんだ」?
1950年代の「水田化に依り国家の要望する食糧増産を図った記録」の石碑
生命の根源を司どる、商業、工業、農業の殖産興行神の稲荷の大神。人々の生活生命全ての守護神
打首獄門を覚悟した40年の直訴でできた用水と、明治期以降の組合での管理の時代へ
4世紀頃からの地形を変え「水稲を育てたい」いう思いがそこかしこに見える大分
コメも海苔も国産に手が出なければ安く輸入すればいいじゃない、の奢り
「つじつまのあれこれ」まとめはこちら。
失敗とかリスクについてのまとめはこちら。
あの日(2022年7月8日)から考えたことのまとめはこちら。
骨太についてのまとめはこちら。
合わせて「米のあれこれ」もどうぞ。