65歳から年金を受給するための申請にはまだもう少し時間があると、アリ(労働者)は日々労働に勤しんでいました。
ある日ふと、「特別支給の老齢厚生年金」が目に入りました。
「特別支給の老齢年金」ってなんだったけ、自分には関係ないと思っていたらなんと該当しているようです。
昭和60年の法律改正により、厚生年金保険の受給開始年齢が60歳から65歳に引き上げられました。受給開始年齢を段階的に、スムーズに引き上げるために設けられたのが「特別支給の老齢厚生年金」の制度です。(日本年金機構「特別支給の老齢厚生年金」)
で、「65歳までに申請しないと受給する権利はなくなる」ようなので、焦って日本年金機構のホームページを読みました。
なんだか読んでもよくわからない専門用語と計算式だらけです。「報酬比例部分」「定額部分」といった用語でつまずき、さらに男性は「昭和36年4月1日までに生まれた方」に対して、なぜ女性は「昭和41年4月1日まで」と受給対象の違いがあるのだろうと考えたら、訳がわからなくなって泥沼におちていくようでした。
え?私が不勉強ですか?
でも皆さんも病気になった時、解剖やら生理学やら疾患やら専門用語についてわけわからないですよね。
さて、難しい計算式と格闘して計算してから気づきました。
なんだ「ねんきん定期便」に書いてありました。そういえば「62歳」から受給額が書いてあったのは、そういう意味だったのかと初めて気づいた次第。
あれは「62歳から早めにもらい始めるとこれくらいの額になります」という意味と勘違いしていました。
「繰り下げ」とか「繰り上げ」とも違い、私たちの年代は「60歳から年金支給のつもりで人生設計をしていたのに、65歳に先延ばしされたからその分をお支払いします」という話だったようです。
そういえば、62歳になった時に「年金の受給権があります」と申請書が封書で送られてきました。
そこには確かにこう書かれています。
62歳になると『特別支給の老齢厚生年金』を受け取る権利が発生します。
でも肝心の「特別支給の老齢厚生年金」の説明はなく、繰り上げ受給する人のためのものと勘違いしていました。
65歳まで働き続けなければと思っていたので、まだまだ年金受給なんて考えていませんでしたからね。
64歳になる3ヶ月ほど前にも同じような書類が届きました。
年金受給の申請は、たしか開始希望の2~3ヶ月前と思っていたので、そのままにしていたのでした。
*在職中の年金支給停止というトラップ*
そうか、この「特別支給の老齢厚生年金」というのは、65歳前に早める「繰り上げ受給」と違って年金受給額には影響しないのかと初めて気づいたのが、つい最近。
まあ、国側の契約違反に対する保護策のようなものですよね。
申請期間の残りがわずかになった頃、いそいそと書類を仕上げて年金事務所に出かけました。
「お伝えしにくいのですが、アリさん(私)の場合ずっと給与所得が高いので、全額支給停止の対象になります。でもこのまま申請書は、65歳からの受給のために使えますから」
「えっ?」
給与所得が高いと言っても、こんなに納めてきたのにあとちょっとで非課税のさまざまな優遇に届かない低年金が確定だというのに。
取らぬ狸の皮算用でした。
年金受給者が働き続けると「48万円」の壁で年金が支給停止になるのは知っていたので、今後の働き方を考えていたところでした。
それがまさか、「特別支給の老齢厚生年金」も支給停止の対象とは。
だって、勝手に政府が65歳支給に先延ばししてしかも途中で年金支給額を減らし、さらになけなしの年金の1ヶ月分ぐらいが消費税でむしり取られていく時代になったので、いわば契約違反の「お見舞い金」のようなものと思っていました。
年金は保険ですから、国との契約ですからね。
窓口では、給与所得の全てが把握されていて(そりゃあ厚生年金ですからね、丸裸にされています)、「昨年の6月から12月の半年間の給与とボーナス分だと支給停止の額を超えてしまうんですよね」と。
看護職の基本給は低くて、ふつう人が働かない時間の夜勤手当や休日出勤手当でカバーしてきたようなものなのに。
ああ、そんなに給与総額までわかっているなら、62歳からの「ねんきん定期便」に「特別支給の老齢年金をもらえる給与総額」とか「あなたには特別支給の老齢厚生年金をもらえる権利があります」「ありません」と赤字で教えてくれれば良いのに。
まあ、仕事にも恵まれたからなんとかここまで来れたことに感謝しよう、アリ地獄に落ちそうな気持ちを切り替えて窓口の方にお礼を言って事務所をあとにしたのでした。
これだけたくさんの人の複雑な年金を、責任もって計算する職員の方々は大変ですからね。
*生かさず殺さずのアリ地獄は続く*
さて、気を取り直して、もう少し年金制度について勉強しましょう。
アリは年金だけでは生活できないので、心身に負担のない程度でもう少し働かざるを得なさそうです。
「現役世代の手取りを増やす」というのは、年金をもらいながら働くアリには関係がなさそうなので、自分でなんとかしなければ。
「在職老齢年金制度の支給停止額」を検索すると、「47万」とか「48万」あるいは「2025年4月からは50万」とか「51万」と、さまざまな額の説明が出てくるのでまた訳がわからなくなりました。
その中で、「2026年4月から支給停止調整額が50万円から62万円に引き上げられます」とありました。理由は「高齢者の活躍を後押しする」とか「働きたい人が働きやすい仕組み」と書かれています。
なんで一気に50万円から62万円に増額なのか、アリはすぐにわかりました。
「昭和36年4月1日までに生まれた男性への特別支給の老齢厚生年金」の対象者がいなくなるからだ、と。残るのは「昭和37年4月2日〜昭和41年4月1日に生まれた女性」の対象者ですが、男性に比べれば基本給が少ないし、働き続けた女性はこの年代では少ないですからね。
ほんと、よくこんなことを考えつくものです。
年金支給停止調整額の壁、どの政党も話題にすらしてくれないのですが、けっこうこれがあるために厚生年金や共済年金の年金生活者は生かさず殺さずのアリ地獄になるのだと実感しました。
せめてあと2年ぐらい早くこれを実施してくれていたら、取らぬ狸の皮算用にならなくて済んだのに。
年間、どれくらいの額かって?
国会議員にしたら、たったの文書費の1ヶ月分ぐらいの額ですよ。でもアリには大金ですからね。
*おまけ*
8年前の高齢者の定義を変えて「皆さんはお若いからもっと働いて、もっと税金や保険料を納めて年金の受け取りはあとにしましょう」という社会になるのではという妄想が、まさかの参議院選挙の候補者しかも厚生労働大臣までなった人の口から出てくるとは。
あな、恐ろしや。
皆さん、年金の先延ばしとか年金支給停止額の話には要注意ですね。
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