つじつまのあれこれ 65 コメ先物取引についての国会の答弁

私が初めて堂島米取引所を知ったのは、令和の米騒動以前でした。

大和川の旧河道を訪ねようと大阪の地図を眺めていた時に、堂島川右岸に「堂島米取引所跡」だったか公園らしい場所を見つけました。米に関する歴史がわかると思って検索したら、どうやらそこには巨大な一粒の米のモニュメントがあることを知りました。

2018年に建てられた「一粒の光」だそうです。

 

米の先物取引は全然知らなかったけれど、今度このモニュメントを見に行こうと散歩の計画に書き込まれました。

それからほどなくして、スーパーの棚からお米がなくなり、何が起きたのだろうと調べているうちにここに突き当たったのでした。

ちなみに、いつからかわからないのですが同じAppleマップにはこの場所は表示されなくなりました。

 

*堂島コメ取引、低調?*

 

さて、3週間ほど前に久しぶりにコメ先物取引のニュースがありました。

堂島取引所、コメ指数先物の取引なお低調 上場から1年

(2025年8月12日、日本経済新聞

堂島取引所(大阪市)がコメの値動きに連動する指数先物「堂島コメ平均」を上場して13日で1年となる。「令和の米騒動」とされる高騰が続き、先物市場の活発化が期待される局面ながら取引はいまだ低調だ。ヘッジや価格指標としての役割を担う先物市場の周知を徹底させる必要がある。

6月30日付で堂島取引所の社長に就任した柴野弘憲氏は「評価としてはまだまだだ」と、コメ指数先物の現状の取引高について分析した。(以下有料記事)

 

取引が再開してわずか1年で社長が交替するし、「低調」だそうですからまた2021年のように廃止になるのでしょうか。

 

久しぶりにコメ先物取引で検索してみると、以前は検索に引っ掛からなかった国会の議事録を見つけました。

 

*「昨年8月堂島取引所において始まった米の先物取引が米価高騰に拍車をかけた可能性」*

 

「第217回国会 農林水産委員会 第13号(令和7年5月13日火曜日)」の議事録に空本誠喜議員(維新)による質疑応答の記録です。

空本誠喜君(維新)

・米高騰関係

 ア. 昨年8月堂島取引所において始まった米の先物取引が米価高騰に拍車をかけた可能性。

>それで、お聞きしたいことはまず堂島の先物取引が始まりました。去年の8月でございます。ここで、この取引が実は、去年の8月も価格が上がってきました、米の値段が上がってきました、これが拍車をかけたんじゃないかな、いかがでしょうか、農水省

○宮浦政府参考人

まず、米の小売価格の動向でございますが、昨年の8月以降、2回にわたって上昇期が続いたというふうに承知をしてございます。

まず、1回目ですが、昨年8月8日に宮崎県沖の日向灘地震が発生をいたしました。この際に南海トラフ地震臨時情報が発令されましたが、それ以降、十月初旬にかけまして、大体五キロあたり二千六百円程度から三千三百円程度まで上昇したというふうに承知をしております。また、その後、二回目といたしましては、昨年十二月から本年三月にかけて五キロ当たり三千五百円程度から四千二百円程度まで上昇していた。この二回があろうというふうに考えてございます。

 一方で、御指摘の米の先物取引でございますが、こちらは、昨年八月十三日に堂島取引所の取引が開始をされました。取引開始当初は取引量も非常に少なく、昨年十二月までは、日々の取引量に応じて価格が一進一退するような、市場としてはまだ未成熟な状態でございました。

 また、二期目の昨年十二月以降は、六十キロ当たりで日によって二万五千円から二万七千円台までいろいろと推移をするようなことはございましたが、現時点におきましても昨年十二月頃と大きな変化がないといった状況でございまして、小売価格と先物取引の価格は動き方がかなり違うなという印象を持ってございます。そういったことから、先物取引が米の価格高騰を招いたというような認識は持っていないようなところでございます

 なお、先物取引につきましては、当然、急激な価格変動に対しまして、一日の値動きが大きい場合には値幅制限を実施するなど、市場の監視、監督を適正に実施をしてきてございます。

 引き続き、安定的な市場運営が行われるように、取引状況を注視をしてまいります。

(強調は引用者による)

先物取引が米の価格高騰を招いたというような認識は持っていない」という政府側の答弁のようです。

 

さて質問した議員さんは、「先物は影響はしていないとおっしゃる。取引状況を注視してまいります」で締めくくりましたが、自ら所属する党の党首が「これからのことを考えたら国に本上場をぜひやってもらいたい」と援護射撃をして堂島の開所セレモニーに参加したのだから、その党首や関係者にまず確認すればよいのに変ですね。

 

そしてむしろ、先物取引を推奨した維新に対し質問される内容ではないかと思うし、政府側も「印象」で答えるのは変な国会答弁だ、と思って読んで気づきました。

こういうのを「言質を取る」っていうのですかね。

 

政府の委員会、もう少し正確な議論がされているのかと思っていました。

 

 

 

*ようやくニュースになってきた*

 

昨年なぜこんなにお米の価格が上がったのだろうとニュースを追っている中で、コメント欄には時々「色々な業者が農家へ直接、高値で買取に来る」という書き込みがありました。

おそらく、その段階で高値を提示して米を確保していることが「2倍近くの価格になった一因では」「ではその高値の根拠は何か」と思っても、なかなかそういう背景の真偽はニュースにならず、とうとう「農林水産省の統計が間違っていた」ことで幕引きを終えそうな気配になってきました。

 

ところが、「やはりこんなことが行われているのだ」とニュース記事本文に書かれているのを見ました。

大きな商社が高額で買取りを行なっていて、地域によっては3万5000円ほどで提示される。我々もコメを集めるために金額を引き上げなければならないのです」

「《新米5kg7800円も》「早く辞めてほしい」「まず生産者と話を」小泉農相にJA秋田会長が"怒りの苦言"…備蓄米放出遅れ、価格上昇はなぜ起きた」

(2025年8月27日、文春オンライン)(強調は引用者による)

 

この高値は今年の話ですが、昨年も昨年8月9日、地震の翌日にはすでに米穀業者から見たらあまりに現状とかけ離れた取引価格だったとあるので、いつ頃からこんな買取方法が広がっていたのでしょうか。

 

さて、農林水産省の「米の先物取引とは」にこんな説明がありました。

Q. 米の先物取引が現物の米価の高騰や急落を引き起こさないの?

A. 先物取引は、将来の価格変動リスクをヘッジするための手段として利用することができます。商品先物取引が適正に活用されれば、生産者や流通業者、実需者の経営の安定に寄与します

(強調は引用者による)

 

 

昨年だけでなく、2000年台の米先物取引きの国会議論もあったので読んでみました。

なんだ、そんなに長い歴史がある議論なのに、なんで昨年からはその影響がほとんど無視されてしかも以前も「低調」で廃止されたのに、1年後に今度は上場させるとか。

影響があるのかないのか、なんだかわからない世界ですが、少なくとも長年議員さんをしていれば以前からの議論を記憶しているのではないかと思いますけれど。

 

指摘して余計なことには巻き込まれたくない、「忖度」なんて日本語もありました。

それとも、まさか米バブルで資産運用なんてことはないですかね。

昨年からの米価の大混乱を、「印象」で先物取引は関係ないと国会でさらっと流されていることに、もっと突っ込む議員さんやジャーナリストはいないんですかね。

 

 

「健全なる國家は健全なる農村の建設と農民の生活の安定にあり」、そのように考えていた方々は今の様子をどう考えるだろうとふと思いました。

「米の価格」の歴史、知らないことばかりです。

お米の価格が不安定だと、国民の生活も不安定になることを実感する毎日です。

 

ということで、勉強のために2000年台ごろからの国会議事録やニュース記事も読んでみました。明日に続きます。

 

 

 

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