2000年代に入って米先物取引が国会でも議論されていたらしいのに、まったく記憶にないのはなぜだろうと思い返すのですが、そうでした産科崩壊と呼ばれる時代にひしひしと医療に迫ってくる得体のしれない「聖域なき見直し」は何か、情報を探していた時期でした。
決して政治に無頓着だったわけでもなく、農業と医療、分野は違えども同じようなことと葛藤していたのかもしれません。
検索して見つけた「コメ先物取引」の記録で、当時自分のアンテナには引っかかってもこないのはなぜだったのだろうと思いつつ覚書として留めておきましょう。
*南国市の先物取引の中止を求める意見書*
さて、2011年(平成23)に当時の民主党内閣に提出された南国市の意見書が公開されていました。
基幹食料、米をマネーゲームに興する、先物取引の中止を求める意見書
米の先物取引の試験上場が実施されたが、ご祝儀相場は1日で終わり、消費者の安心・安定供給への願いや、農業者の再生産への保証などの考えは、全くないままに価格は乱高下した。世界の気象が異常な今、食料への不安は緊迫度を増している。飢餓人口は地球上に6人に1人(10億人)ともいわれる今、主食を投機の対象にするなどの行為は許されたものではありません。
2005年に商品取引所からの試験上場申請を農水省は却下しているではありませんか。国全体で生産調整をしている。市場原理にゆだねるのは矛盾するとして、今も戸別所得補償で生産調整の仕組みは続いています。政府の食料自給率目標50%は今や39%。夢のまた夢に置かれています。今こそ戸別所得補償制度の充実強化をはかって、農業者に安定した価格が補償されてこそ、再生産への意欲は拡充され、消費者ニーズへの対応も広がってまいります。自給率向上のためにも、速やかに米の投機、先物取引の中止を求めるものであります。
以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出する。
南国市議会
なんと「試験上場」は実際に米価格の乱高下という失敗をしていたようです。
2005年(平成17)に米先物取引試験上場が却下されたものの、2011年(平成23)に試験上場が開始された時にこの意見書が出されたようです。
当時の民主党政権はこれに対して、どのような対応を取ったのだろう。
新たな疑問にぶつかりつつ、物部川に築かれた山田堰とその水が潤す広大な美しい水田地帯と、ごめん町のメッセージを思い出しました。
*2021年コメ先物試験上場から「完全撤退」*
そして結局2021年には先物取引は廃止されたニュースがありました。
コメ先物、廃止へ 堂島社長「完全撤退」
(2021年8月6日、産経新聞)
農林水産省は6日、大阪堂島商品取引所が申請していた試験上場中のコメ先物取引の本上場移行を不認可とした。堂島の中塚一宏社長は東京都内で記者会見を開き、試験上場の延長申請をしない方針をあらためて説明。現在の試験上場期限の7日を持って、国内唯一のコメ先物取引市場が廃止となることが決まった。
中塚氏はコメ先物について「決定は誠に不本意。この国の農業、農業生産者のためになると思っていた。不認可はとても残念」と述べた。将来的にもコメ先物から「完全撤退する」と表明した。
コメ先物は旧民主党政権下の平成23年に試験上場を開始。当初は取引高が低迷し、2年ごとの試験上場で市場を存続させてきた。ここ2年は取引高が過去最高水準になり、今回の申請を「10年間の集大成」に位置付けて本上場移行に向け踏み切った。
農水省からの通知では、生産者や流通業者の取引参加者数が伸びていないことなどを理由に基準を満たしていないと判断されたという。
7日の試験上場の期限後、商品ごとに定められた期限が到来するまでの間は取引できるが、期限を新規に設定する取引はできなくなる見通しだ。「新潟コシ」などの主要商品は来年6月が期限となる。
堂島は今年4月に会員組織から株式会社に移行。ネット金融大手のSBIホールディングスや海外金融機関などが出資した。コメ先物取引という中核事業を失い、経営方針の転換は避けられない。経営への影響は軽微とするが、中塚氏は「堂島イコールお米。シンボルがなくなるのは残念」と語った。
今後は貴金属などの先物取引を始め、総合取引所になることを目指している。
コメ先物の本上場移行をめぐっては、全国農業協同組合中央会(JA全中)などのJAグループや自民党が反対姿勢を示していた。
(強調は引用者による)
2018年にあの「1粒の光」という大きな米粒のモニュメントが建てられた3年後に試験上場が廃止され、「完全撤退」と言いつつ2024年には本上場となった。
どんな動きがあったのだろう。
このニュースにも全く気づきませんでした。
よほどの災害がない限りは、美味しい国産のお米をいつまでも安定した価格でたくさん食べることができると、安心し切っていた頃でした。
*その2か月後の参議院質問主意書*
撤退して2か月後に提出された質問主意書が公開されていました。
令和三年十月四日 室井 邦彦
大阪堂島商品取引所(社名変更により現在は「堂島取引所」)は令和三年七月十六日にコメ先物取引の本上場認可申請を行った。農林水産省においては、当該認可申請書を受け、「取引の状況に照らし、申請書が当該先物取引をする株式会社商品取引所になることが米穀の生産及び流通を円滑にするため必要かつ適当であると確認できない」として、堂島取引所に対し、当業者の参加者数及び利用意向が少ない旨の指摘を行った上で、令和三年七月二十七日、当該認可申請に係る「意見の聴取」を行う旨の通知を発出している。令和三年八月五日に農林水産省において実施された「意見の聴取」では、堂島取引所より、前述の指摘事項に対する意見及び我が国におけるコメ先物取引の重要性について主張がなされた。令和三年八月六日、農林水産省は、試験上場期間における堂島取引所のコメ先物取引の取引状況について、当業者の取引への参加が拡大していない、当業者の利用意向が減少している、取引の九割を新潟県コシヒカリが占めており価格指標として今後の広がりが期待できないことを理由に挙げ、当該本上場申請が、「生産及び流通を円滑にするため必要かつ適当であること」に該当しないとして、不認可の決定を下した。
以上を踏まえ、以下質問する。
一 貴金属や原油など他の商品先物取引と比較して、コメの先物取引ほど当業者が参加している先物取引史上はないものと承知しているが、今回の不認可判断に際しては、どのような比較検証も下、当業者の参加数が少ないとの判断を下したのか、政府の見解を問う。
二 兼業農家が大層を占める日本の農業において、価格に敏感なコメの農業従事者の数は限られており、そもそもコメの先物取引における当業者の参加数の多寡を判断する前提となる母数は、こうした価格に敏感なコメの農業従事者を基準に判断すべきものと思料する。この点に関し、現在及び将来を含めてこうした価格に敏感な農業従事者の数をどのように見積もっているか、政府の見解を問う。
三 コメ先物取引の試験上場は五期十年にわたり実施されてきたが、この間、コメ先物取引に参加する生産者の数は、一貫して増加しているものと承知している。加えて、史上で実際にポジションを建て、現物価格のヘッジを行うか否かは、数々の相場の状況や個々の農業従事者の毎年の作付け状況、さらには事業状況等により左右されることを踏まえれば、当業者の参加数については、各期ごとの数字のみを切り出して機械的に判断するのではなく、当業者の実際の口座開設数も考慮するなど、当業者の先物取引活用の実情を勘案した上で判断するべきものと思料するが、政府の見解を問う。
四 一般論として、認可判断には裁量権が伴うものと承知しているが、行政の予見可能性を高めるためには、法令上の一義的な文言のみならず、行政運用上、一定のメルクマールを示していくことも、行政の重要な役割であると思料する。これらを踏まえた上で、コメ先物取引には、客観的にどの程度の水準の当業者の参加数があれば、本上場が許容されるのか、政府の見解を問う。
五 当業者の利用者意向が減少しているとの点について、具体的にどのような者を対象にどのような手法を用いて調査をしたのか、加えて、調査手段の公正性・適切性について、政府の認識及び見解を問う。
右質問する。
(強調は引用者による)
この時点では日本維新の会に所属していたようですが、かつては統一教会の支援を得て自民党から立候補、2011年には民主党議員で政務官を務め、2013年から日本維新の会に入ったようです。いろいろねじれていますね。
そして2024年8月の本上場とその後の変化を見ることなく、その直前に逝去されたようです。
自主流通米の制度になってから、どのような経緯でコメ先物取引が国会で議論されるようになったのでしょう。2000年代の自民党政権から民主党政権へ、そしてまた自民党政権へ。
議員さん達も所属政党がしょっちゅう変わるので、お米の価格を決めるための議論の年表を追いかけるのは大変ですね。
*おまけ*
それにしても慣れていないので国会の記録は読みにくいですね。質問主意書への政府の答えがリンクされていないので探さなければなりません。
まあ、年金生活の「壁」に向けてあれこれ攻防戦中のアリは仕事量(収入)を減らしているので時間はあります。
ゆっくり2005年頃の国会の議事録も探すことにしましょう。
やり残した人生の宿題がたくさんですね。
「記憶のあれこれ」まとめはこちら。
「お米を投機的に扱わないために」まとめはこちら。
骨太についてのまとめはこちら。
あの日(2022年7月8日)から考えたことのまとめはこちら。
失敗とかリスクについてのまとめはこちら。