記録のあれこれ 225 自民党の「米の先物取引試験上場の認可に対する抗議声明」

米を投機性の高い商品にしようという流れは、てっきり自民党の骨太の流れと「米というのは日本に残された最後の保護貿易」という人がかかわる維新の会だと思っていたら、2000年代には民主党が積極的に進めていたらしいことが少し見えてきました。

 

その当時の雰囲気がわかる記録を3つ、覚え書きのための記録です。

 

 

*「農協の政治力」?*

 

72年ぶりのコメ先物市場再開 阻止できなかった農協の焦り

(2011年7月19日、週刊ダイヤモンド編集部)

 

 農協が組織を挙げて反対してきたコメ先物取引の試験上場が7月1日に認可され、東京穀物商品取引所関西商品取引所は8月8日から取引を開始することを決めた。

 これを受けて農協の中央組織であるJA全中全国農業協同組合中央会)は本上場阻止に向けて引き続き運動を展開していくことを表明したが、「これは農協の歴史的敗北だ」と農政に詳しいキャノングローバル戦略研究所研究主幹の山下一仁氏は語る。

 江戸時代に始まり、戦時経済下の1939年に廃止されるまで商品取引の主役だったコメの再上場は、取引所関係者にとって長年の悲願だった。東西の商品取引所は2005年にもコメ先物の試験上場を申請。この時は認可寸前までいったものの、「農協の反対によって土壇場でひっくり返された」(取引所関係者)。当時は自民党政権下であり、農協の政治力は往時に比べ衰えたとはいえ、農政に対して大きな影響を及ぼす力を保持していたのである。

 ところが民主党政権に変わり、農協の政治力は大きく衰えた。今回の試験上場認可はそれを象徴する出来事だったのである。

 それにしても、農協はなぜコメ先物の上場を嫌がるのか。それは、農協が持つ価格決定権を脅かされるからである。

 農協グループは全農(全国農業協同組合連合会)価格と呼ばれる希望売り渡し価格を提示し、大手卸などと相対で取引価格を決めるが、コメの流通量で5割以上の圧倒的なシェアを持つため、買うほうは「農協の言い値で買い取るしかないのが実情」(コメ卸大手)だ。

 ところが、取引参加者によって価格が決まる先物市場が開かれれば、それが指標価格となり、卸や量販店などが農協との価格交渉の材料に使う可能性が出てくる。

 また、コメ先物市場には現物受け渡し機能があるので、新たな仕入れルートの一つとしても使える。たとえば、10年産のコメは現在品不足で、足元の相場は上昇基調。このため、「11年度産について全農は価格を引き上げる意向」(コメ卸大手)だが、仮に先物相場の価格が安ければ、農協から買わずに取引所で買い付けるという選択肢が生まれる。実際、今のところ天候に恵まれている11年度産は豊作基調で先安感がある。

 コメ先物が農協の価格決定権を脅かす市場に育つかどうかは、上場後の取引量にかかっている。2年間の試験上場後の本上場の認可は十分あ取引量が見込まれるかどうかが大きなポイントとなる。

 たとえば、現在の東穀取の主力商品であるトウモロコシの取引量は1日当たり5000枚(1枚=5トン)程度。これが一つの目安となりそうだが、大手先物取引会社の役員は「取引不参加を表明している農協が無視できないほどの市場に業界を挙げて育てたい」と意気込む。今でも信用(金融)事業に依存する農協の収益構造は、コメの価格決定権を失えば、ますます悪化する。今、コメ先物市場の動向を最も注視しているのは、ほかならぬ農協自身だろう。

(「週刊ダイヤモンド」委嘱記者 田原 寛)

 

 

民主党政権に対する自民党の抗議*

 

 

2011年ごろは、自民党内でも米先物取引に対して抗議声明まで出していたようです。

 

コメの先物取引試験上場認可に抗議 農林部会・水田農業信仰議員連盟

(2011年7月1日、自由民主党ホームページ)

 

鹿野道彦農林水産大臣が1日、東京・大阪の穀物商品取引所によるコメの先物取引の試験上場を認可したことを受け、農林部会と水田農業振興議員連盟は同日、記者会見を開き、即時撤回を求める抗議声明を発表しました。

声明文では(1)東日本大震災原発事故を受けた生産者の心情を踏まえず、コメの需給上の不安も考慮していない (2)国会議論もなく、与党民主党内にも多くの異論があるにも関わらず強行されたもの (3)大臣は戸別所得補償制度などで状況が変わっているから認可したというが、そもそも同制度には法的根拠がないーーなどを指摘。

会見で加藤紘一同部会最高顧問は、「民主党政権になってからコメ価格を市場経済に任せる動きが強くなっている。コメを市場経済化の極地といえる穀物取引市場に試験上場することにより、コメ価格の大きな変動や、農家の所得基準が乱高下することもあり得る。

政府は現場の現状を見ずに、理論倒れに陥っている」と強く訴えました。

 

かつての自民党では、市場経済化の極地といえる穀物取引市場」というとらえ方があったのですね。

「極地」、最果てとかどん詰まりらしいですけれど。

 

 

あの日以来、日常生活だけでなく未曾有の大震災の中でどうやって安全にお母さんや赤ちゃんに対応できるか考えていた緊張の日々に、あのタイミングで決定されていたとは。

 

大災害とか未曾有の感染症拡大とか「災害と認識する暑さ」と異常気象天候が続いている社会が不安定な時期は、むしろ日用品や食料が安定して行き渡るように政府が管理するものだと思っていました。

 

 

*「米の先物取引試験上場の認可に対する抗議声明」*

 

添付されている関連資料も記録しておきます。

 

米の先物取引試験上場の認可に対する抗議声明

     平成二十三年七月一日

     自由民主党

     農林部会・水田農業振興議員連盟 合同会議

 

 鹿野農林水産大臣は、本日、東京・大阪の穀物商品取引所によるコメの先物取引の試験上場申請を認可したが、とんでもない暴挙であり、即時撤回を求めるものである。

 暴挙である論拠は数えきれないほどある。

 

一、 上場申請は、東日本大震災津波、そして東電原発事故以前になされたものであり、被災地の復旧・復興が全くと言っていいほど進んでおらず、かつ原発による放射性物質の汚染におののく生産者の心情を全く踏まえず、コメの需給上の不安をも考慮したものでないということである。

 

二、菅総理が自ら作り出した政局の中で、国会論議も全く行われず、われわれ自民党の申し入れも無視し、かつ与党民主党内にも多くの異論があるにもかかわず、さらには、各方面からの申し入れについても十分な検証議論がなされず強行したものである。

 

三、大臣は、コメの戸別所得補償の実施や生産調整への選択性への移行を理由に挙げ、状況は変わっているから認可したとしているが、コメの所得保障は法的根拠もなく、制度維持のための恒常的な財源の見通しもたっていない。ましてや、戸別所得補償制度の検証も行われておらず、生産調整は引き続きその実効性が不安定である。五年前にわれわれ自民党政権が不認可とした状況と何ら変わっていない。

 

四、コメの需給と価格形成を投機の市場にゆだね、我が国の主食たるコメの安定生産・流通にかかわる国の責任を放棄する大臣の姿勢は将来に大きな禍根を残すものである。このことにより生起する問題は、ひとえに大臣の責任である。

 

五、今回の認可は、われわれが危惧したとおり、日米FTAやTPPへの道を突き進むものであると言わざるを得ず、まさに民主党農政の本質を示すものである。

 

以上、われわれは、コメの先物取引の試験上場の断固反対、即時撤回を求める。

 

この内容なら、かつてのどんな状況にある人も見捨てないというこの国に対する信頼感を思い出しますね。

 

こんな強い声明文で抗議していた自民党が、昨年、本上場を認可したのはなぜだろう。

そしてこの数年後には官邸によって異例の事務次官の人事が行われ、「強い農業」が推し進められた。

 

「与党対野党」といった政局に誤魔化されている間に、何か違うことが動いていた感じでしょうか。

ほんと、政治・経済の世界はよくわからないですね。

 

 

 

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