事実とは何か 121 「強い農業」と「農業改革」とは何か

「改革」と聞くと、漠然とながらも不安になるこの頃。

10年前の「農業改革」とは何だったのでしょう。

 

小泉進次郎・自民農林部会長「人寄せパンダ」を卒業?農業改革で手腕アピール 周囲から「出来レース」の陰口も・・・

(2016年12月2日、産経新聞小川真由美「政界徒然草」)

 

 政府と自民党の利害が激突した農業改革は、JAグループで商社機能を担う全国農業協同組合連合会連合会(JA全農)に組織刷新など年次計画の策定させることで決着した。調整に奔走した自民党小泉進次郎農林部会長は「農業界の風景は変わった」と自らの手腕をアピールするが、政府が求めた全農改革の肝心な部分は党の農林族に押し切られ大半が見送られた。党内には「人気とりの出来レース」と小泉氏を揶揄する声がくすぶり、全農改革は骨抜きになる懸念が残る。小泉氏の目指す農業改革はむしろ今後が正念場だ。

 「今回は鍛えられましたね。本当に」。小泉氏は11月25日、党の改革案が了承された農業関係合同会議終了後、記者団に、達成感と安堵感がない交ぜになったような表情でこう述べた。

 さらに、党内手続の経緯に触れ「苦渋の決断がいくつもあった。大きな団体を相手にして切り込んでいこうと、その世界に踏み込んだ者しかわからない、包囲網の張られ方がある。そのすさまじさ、一夜にして状況が一変する怖さがあった」と振り返った。

 小泉氏の言葉から、農林族やJAとの激しい攻防を乗り切り、人寄せパンダから脱して政治家として一皮剥けたという強烈な自負を感じさせた。

 政府と自民党が農業改革をめぐりガチンコ対決となった背景には、農業を成長戦略のエンジンに転換させたい政府の思惑がある。

 日銀の金融政策はマイナス金利の導入に伴う銀行収益の圧迫などが目立ち始め、手詰まり感は強い。消費の弱さと企業収益のもたつきで税収も伸び悩み、大胆な財政出動もままならない。

 4年前の政権発足直後から、安倍晋三政権はアベノミクスの第一の矢と第二の矢で経済を急回復させたが、第三の矢である成長戦略で目立った成果は出せていない。成長の起爆剤と見込んでいた環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)も、トランプ次期米大統領のTPP撤退宣言で米国を含めた発効は困難な情勢だ。

 経済成長の目玉が見当たらない政権にとって、海外での和食人気など伸びしろの大きい農業を「きつい、汚い、もうからない農業」から「稼ぐ農業」へ転換するのは喫緊の課題だ。 

 実際、安倍政権は平成26年にコメの生産量を減らす生産調整(減反政策)の廃止、27年は全国農業協同組合中央会(全中)の地域農協への監査・指導権の廃止など権限縮小を決めるなど、農家の収益力向上に剥けた環境整備を着実に進めてきた。

 そして今年、小泉氏は改革のターゲットを農機具や肥料などの仕入れと販売、農産物の委託販売を担う全農に定めた

 全農は取扱高が約5兆円と大手勝者に匹敵する巨大組織で、生産資材の価格や農産物の流通加工構造に絶大な権限を持つ。だが、本来全農はそのスケールメリットを生かし、農家に資材を安く販売するどころか、実際は資材を農家に売る際の手数料を主な収益源としているため高い資材を農家に販売してきた。農作物の販売も委託販売のため売れ残りのリスクは農家が背負う。

 

 小泉氏は、こうした全農の体制こそ農家の経営の自由を奪う存在だと判断。安倍首相も「全農改革は農業の構造改革の試金石だ」と小泉氏にエールを送った。

 「農業は素人」だと自覚する小泉氏が、全農や農林族の反発を自ら招くような急進的な改革を主張できたのは、今年の農林水産省次官で、省内きっての農業改革派である奥原正明経営局長を起用し、小泉氏をサポートするよう指示した菅義偉官房長官の後ろ盾があったからだろう。

 今秋、菅氏は周囲に「思い切って(改革を)やるように(小泉氏に)言った」と話し、「俺は農家の長男だ。改革ができないとは言わせない」とも語っていた。

 だが、最終局面で小泉氏に難題が降りかかる。

 11月11日、政府の規制改革推進会議の農業部会が小泉氏も「高すぎるボール」と驚く提言を公表した。農協に対し、生産資材購買事業の「1年以内」の縮小や農産物の委託販売の「1年以内の廃止」、金融事業を営む地域農協の数を「3年を目処に半減ーと、全農に対し期限を切った改革を迫る内容だった。

 推進会議のメンバーの一人は「個人的に全農は廃止してもいい」と明言する。民間団体である全農の経営に政府が介入することはできないにも関わらず、あえて全農に急伸的な改革を求めたのは、「1年でできないのは百も承知。こちらの本気度を示す狙いだった」(政府関係者)と話す。

 実は11日午前、小泉氏は自民党本部での全国女性議員政策研究会で講演し、党の農業改革について「相手方(=JA側)は気づいていないが、連日党内の実力者と夜ごはんを食べ、泣きついていることが全部耳に入っている」と胸を張り、党内調整に自信を示していた。小泉氏にとって規制改革推進会議の提言は、警戒していたJAだけでなく、改革の必要性で足並みを揃えていた身内からの不意打ちだったとも言える。

 この提言に対し、JAの支援を受ける議員は猛反発した。17日の農業関連合同会議では45人の議員が2時間以上にわたり「政府と全面対決だ」「地方創生に逆行」と声を荒げ、部屋には怒号が響き渡った。

 事態の沈静化に乗り出したのは二階俊博幹事長だった。21日にJAが開いた緊急集会で二階氏は「われわれと農業者が対立すると日本も党も持たない。戦う相手があれば一緒に戦いましょう」と規制改革会議の提言に反対の意向を示した。結局、党の示した農業改革は、生産資材の購買事業や農産物の買い取りに関しては年限は外され、農協の収益源である金融事業については言及すらなかった

 あるベテラン議員は「小泉氏の人気頼みで理想を追うのは結構だが、選挙で自民党が負けるリスクを彼は背負えるのか」と不快感を示す。7月の参院選で東北6県(いずれも改選数1)のうち5県で敗北するなど、農業改革へのアレルギーは根強い。

 

二階氏は25日、党の改革案が決まった直後、「われわれの背後には、たんぼで、山で、働いてくれている日本の多くの、本当にまじめな農民の方々が多くいらっしゃることを片時も忘れてはならない」と強調した。二階氏には政権の実績づくりのために農業改革を急げば、選挙で敗れ、党の基盤が根幹から揺るぎかねないとの判断があったと思われる。

 小泉氏は、党の改革提言について、「新しい組織に生まれ変わるつもりで」という全農改革に対する首相の言葉を盛り込み、目標数値を含めた年次計画を公表することを求めた部分を「僕が一番こだわった」と胸を張る。そして、「これが必ず、今後の自己改革を進める中でピン留めとして効いてくる」と断言する。

 だが、西川公也農林・食料戦略調査会長は党の案が固まった24日、記者団に全農改革の進捗状況の検証について「進行管理は農水省中心にやってほしいし、われわれは農林水産省と一緒に実行していくよう努力する」と明言した。

 全農関係者は「奥原次官が辞めればこちらのペースだ」とほくそ笑む。JA、農水省という選挙と経済政策でタッグを組んできた3者はいわば身内であり、全農の自己改革が実効性を伴うかは不透明だ。

 高い知名度を生かし、全農改革の必要性を国民に知らしめた小泉氏の功績は大きい。ただ、自民党の支援団体として長年蜜月関係にあるJAグループにメスを入れることは自民党にとって諸刃の矢だ。

 全農の外堀は着実に埋まったとはいえ、安倍政権のこれまでの農業改革と比べ今回の成果は乏しい印象は拭えない。小泉氏の国民的人気と改革への情熱を持ってしても、農業改革が一筋縄ではいかないことが明らかになった。

 農政新時代には「農業の現場が改革の旗手になる」(小泉氏)ことが欠かせない。改革の旗手という看板倒れに終わらないためにも、小泉氏には今回のタフな経験を生かし、JAや改革に慎重な農家にも理解を得る不断の努力を続けてほしい。

 

 

奥原正彦氏をググったら、「奥原正彦・小泉進次郎」という検索タイトルがあったのでクリックしたところこの記事が出てきました。

「人寄せパンダ」とか「出来レース」から、今年5月の舞台裏かと思って日付を二度見したのでした。

 

*10年前の私怨は今も続くらしい*

 

「強い農業」で初めて知った名前が出てきたもう一つの記事がありました。

こちらは10年前の話かと思ったらつい最近のことのようです。

 

小泉進次郎と「コメ既得権」の死闘が始まった・・・コメ価格高騰の元凶「ガチガチ族議員」の実名と、裏で進次郎を支える「財務省の企み」

(2025年6月11日、週刊現代より抜粋)

 

そして「抵抗勢力」との対決へ

 「小泉劇場」の再現となれば、世論の支持が一層高まり、次期首相の座が近づくジャンピングボードになる可能性もある。

 側近は最近、小泉農林部会長時代に農協改革に共に奔走した奥原正明・元農水事務次官接触し、アドバイスを求めたという。「改革派官僚」を自任する奥原氏は農林族やJAから天敵視される人物だけに、チーム小泉として参加することになれば、コメ政策をめぐるバトルは一気に本格化するだろう

 小泉氏は農相就任直前の「週刊現代」6月9日号のインタビューで「これだけコメの価格が高騰しているのに、生産者団体や農協などの既得権益に気を遣い、消費者目線を軽視してきた」と従来の政府・自民党の対応を批判。「コメ増産を訴えてきた石破首相は、今こそ消費者目線の農政改革を大胆に打ち出すべきだ」と進言していたが、今や自分が改革の先導役として矢面に立たされた格好だ。

 「(コメ高騰対策)は思う存分やってもらって構わないが、小泉さんが農業の現場を全て知っているわけではない。間違った改革をすれば、食の安全保障に影響するので、我々もよく見ておかなければならない」

森山氏をはじめ農林族は、小泉農相の暴走への警戒感を隠さない。国政選挙の集票マシーンで、農水官僚OBの天下り先の供給源ともなっているJAは、郵政における郵便局長会と並んで絶大な政治的影響力を持つ存在だ。

 小泉氏は父に倣って、これら抵抗勢力と徹底的に対決できるか。政治家として勝負の時を迎えているようだ。

 

この記事を見つけて読んだ数時間後、石破首相辞職のニュースが流れました。

その前日に菅元首相と小泉農相が官邸を訪ねて説得したとか。

たしか先週までは米の増産という歴史的な大転換を決めた石破首相を支えるようなことを言っていたのですけれど。

 

 

*この10年ほどの「強い農業」とか「農業改革」ってなんだろう*

 

この10年の「農業改革」とはなんだろうと思った時に、「株式化」なのだとわかりました。

 

協同組合というみんなで豊かになろうというシステムは嫌いで、「株式」という形で大きな資金に食い込もうとすることを目的としているのだ、と。

 

そうそう、医療でも10年ほど前に国民皆保険の見直しや「病院の株式会社化」、医療は利益を生む産業足り得るべきという考えを持つ人がいましたね。

 

民間の団体なのに、協同組合には政府が強い権限で介入する。

それが新しい資本主義とか骨太の本性のようで「自由」とは名ばかりだし、輸出に強い農業を目論む人と内需拡大とはつくづく相性が悪そうですね。

 

 

*おまけ*

 

「われわれの背後には、たんぼで、山で、働いてくれている日本の多くの、本当にまじめな農民の方々が多くいらっしゃることを片時も忘れてはならない」

感動する言葉ですね。

その方が同じことをその8年前に医療現場に向かって言ってくださっていたら。

 

そして政治家の皆さんが、全ての実業に対してそう思ってくださったら、そして私怨や私利に囚われることなく国民の生活の問題解決のために働いてくださったら、「〇〇族議員」なんて呼ばれずに済むことでしょう

 

 

 

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