いよいよ筑後川にかかる原鶴大橋を渡ります。
堤防道路から見えたのは、予想よりも川幅も水流も少ない筑後川でしたが、なんといっても日本三大暴れ川のひとつですからね。最近は年々、大きな橋を歩くのに足がすくむようになりました。
当日の写真を見返すと、橋のたもとで大石水道を振り返って1枚写真を撮っていました。
よく見ると「角間天秤」の案内板とともに石積みの分水路が写っていました。美しい場所です。
さあ、いざ筑後川を渡りましょう。歩行者専用の橋からは下流への流れが見えます。堤防ギリギリまで水面がゆったりと流れ、真正面の小高い山にぶつかるようにそこから流れを変えています。あの少し先が、山田堰のあたりでしょうか。
筑後川右岸には温泉街が続き、住宅地を200mほど歩くとまた堤防が見えます。
あそこが地図で見つけた放水路に違いありません。
そして、そこから山田堰方面へのバスに乗る予定です。
と、目の前をバスが通過して行きました。あらかじめマップのバス停の時刻表を確認し、さらにバス会社のサイトでも確認したのに、何か勘違いしてしまったようです。
ああ。
この日は朝から日田市内を歩き、JRうきは駅からここまで歩いたのでちょっと疲れましたが、もう山田堰まで歩くことが確定しました。
土手を上ると原鶴放水路を見渡せる場所で、バス停は小さな小屋になっているので少し休憩することにしました。
地図では筑後川右岸の出っ張ったところに原鶴温泉があり、その「羽」をこの放水路が断ち切っているように見えます。
想像した通り、水が全く流れていないまっすぐな茶色の場所でした。
*「原鶴分水路」*
地図では「原鶴放水路グラウンド」と表示されていますが、筑後川河川事務所の説明では「原鶴分水路」になっていました。
原鶴分水路
昭和28年6月の大洪水は、過去の出水を大きく上回り、随所で破堤決壊して、筑後川全域にわたり惨たんたる災害をもたらし、なかでも原鶴地区の被害はじん大なものであった。
これを契機として改修計画の改訂が行われたが、当地区の計画高水流量6,200㎥/secに対し、現河道の流下能力は狭さく部のため4,600㎥/sec程度であり、その対策としては種々比較検討された。検討の結果、水理、施工、工事費および観光地(温泉)としての現場を考慮して分水路により対処することになった。
用地取得は昭和43年度から着手し、先行取得によって同48年にはほぼ終了した。工事は同47年より橋梁工事に着手、昭和54年に分水路事業は完成した。
私が生まれる前の古今未曾有とされる豪雨は、筑後川流域に大きな被害をもたらしたようです。
その後、1957年(昭和32)に筑後川水系治水基本計画ができ、ダムや洪水時に放水する分水路などが計画され、私が小学生の頃にこの地域の用地取得、そして完成したのは1979年(昭和54)というと私が高校を卒業したあとですから、治水は本当に気が遠くなる時間が必要ですね。
そして「大石分水路」「千年分水路」も筑後川左岸側に造られたようです。
もう一度地図を見ると、確かにありました。
想像したほど怖くないと思いながら原鶴大橋を渡ったけれど、この辺りは中流域の中でも川幅が狭く蛇行していて、かつては氾濫しやすかった場所かもしれません。
*「10年間に4回も浸水」*
放水路によって温泉街の生活も生業も守られるようになったのだろうと思っていたら、「原鶴温泉の老舗旅館・・・10年間に4回も浸水」という記事がありました。
いつの記事だろうと思ったら、なんと2025年6月9日付でした。
原鶴温泉の老舗旅館・・・10年間に4回も浸水 待ち望んだ地区のポンプ施設完成 「安心して生活できる」豪雨時の排水能力は6倍超えに 福岡
8日に梅雨入りした九州北部地方では11日にかけて大雨となるおそれもあり、気象台が注意を呼びかけています。
こうした中、9日午後3時半から福岡県朝倉市の原鶴温泉地区で行われた式典。
長らく待ち望まれていた浸水対策設備が完成しました。
◆原鶴温泉旅館組合 井上善博組合長
「このポンプ施設の完成により、豪雨時の排水能力が大きく向上改善し、今後は安心して日々の暮らしや仕事を続けることができます」
この原鶴地区といえば…。
◆泰泉閣 林里美室長(2023年)
「ここに冷蔵庫が並んでたけど、なぎ倒されるくらいで、私のこの辺くらいまできてたと思います。お庭を見ながら、特別なお部屋ということで作っている。まさかここもつかるとは…。」
原鶴温泉地区を代表する老舗旅館「泰泉閣」。
2年前の大雨で、大規模な浸水被害に見舞われ1カ月の休業を余儀なくされました。
泰泉閣が浸水被害を受けたのは、それまでの10年で実に4回。
被害が頻発する理由は…。
◆泰泉閣 林里美室長(2023年)
「水がここに流れて、放水路を水にはけさせる役割。とてもこんな大きさとか深さじゃ水がはけないので、ここが調整していれば、うちはつかることはないが…。
原鶴温泉地区は九州最大の1級河川・筑後川と、洪水を防ぐために人工で作られたいわゆる分水路に囲まれています。
大雨の際は、地区内にある調整池の水をポンプを使って排出する必要がありますが、これまでは排水が追い付かず調整池からたびたび水があふれて、浸水被害をもたらしていたのです。
そこで今回、導入されたのが…。
◆記者リポート
「きょうからこの調整池に設置されたのがこちら6台のポンプ。従来の6倍を超える量の排水が可能になるということです」
1分あたりで排水できる量はこれまでの16トンから98トンと大幅に増えました。
さらに排水能力を高めるため、調整池への流入口を1ヵ所から3ヵ所に増やす工事も進められていて、まもなく完了する予定です。
◆朝倉市建設課 西田茂課長
「床上浸水をゼロにするために計画しているので、一番は床上浸水がゼロになることを期待」
◆泰泉閣 林恭一郎社長
「ここ数年続けざまに浸水被害にあっていましたので、毎年この時期が来るのが恐怖心すらありましたが、このポンプが設置されることで旅館も地域に住んでいる方も安心して生活ができるようになると思います」
各地で進められている大雨対策。
10日は福岡でも警報級の大雨となるおそれがあり、気象台が警戒を呼びかけています。
(「福岡TNCニュース」)
訪ねた時の美しい風景から一転して、大雨の時には放水路と本流の濁流にはさまれて中洲となる地域。
日本では、水源となる山地等から海などに注ぐまでの距離が短い川が多く、それによって流れが速い川が多い。そのような川でひとたび増水すると、その増水分を吸収・緩和できるバッファが少ないことから、堤防の越水・決壊等を招くことが往々にしてあり、そのため、「暴れ川」という川が多い。
(Wikipedia「暴れ川」)
ひとたび増水すると生活への被害は甚大だけれど、その恵みも大きく、古えから水を利用したいという願いが続いている。
川を訪ね歩くようになった数年前に、「暴れ川」に名前があることが不思議に感じたのですが、「筑紫次郎」と呼ぶことで災害への恐怖や憎悪だけでない何かがあるのかもしれませんね。
「水のあれこれ」まとめはこちら。
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