予定していたバスが行ってしまったので、本当は歩くはずではなかった区間の散歩へと重い腰をあげました。
次の目的地の山田堰は原鶴大橋から見えた、ゆったりと蛇行する筑後川が小高い場所で流れを変えるあたりの向こう側で、ここからは約2.5kmです。
距離はそれほどでもないのですが、5月初旬なのに真夏のような日差しになり、そして歩道がない区間がありそうなことが不安の種でした。
先に進まなければこの日の宿泊地の柳川に向かうのに、またJRうきは駅に引き返すしかありません。
でもやはり筑後川を眺めてみたい、念願の山田堰も見ないままで帰るなんてありえないと歩き始めました。
原鶴分水路の橋からは、水のない放水路の先にゆったりと筑後川本流が流れているのが見えました。地図では「原鶴鵜の火橋」と表示されていますが、このあたりでも鵜飼があるのでしょうか。
橋を渡ると国道386号線と合流し、それまでほとんど車のいない道から交通量が多い道になりました。
筑後次郎と呼ばれるくらいの流れですから高い堤防か川面よりも高い場所に道路があると想像していましたが、両岸ともに川とそれほど変わらない位置から美しい川面を眺めながら歩くことができました。
川沿いの倉庫のような場所の間に筑後川へ向けて石段があって、すぐそばに水が見えます。川とともに生活している場所でしょうか。美しいけれど、濁流になった時は石段の上まで水に浸かりそうな近さです。
歩道の有無まで表示されるようになったマップの通り、忽然と歩道が消えてただの白線になりました。
暑いので日傘をさしたいけれど、かするように車が通るし、川風も強くなってきました。
えいっと、汗が噴き出る中、ただただ歩きます。
時々、筑後川の美しい水面に目をやり、背後から車の気配があると川沿いギリギリに立ち止まって車を行かせ、後で見たらこの区間は全くメモがありませんでした。
ヒヤヒヤしながらだいぶ歩いたような気がするのですが、地図で見るとわずか200mほどでした。山が川へと迫り出していて、道路を作るのも大変な場所だったのかもしれません。
人家が見えて、また片側だけですがここからは歩道がありほっとしました。
暑い中、道路の改修工事をされています。いったん、筑後川から少し離れて上り道になり、大分自動車道を越えて小さな北川の橋を渡ると、あの原鶴大橋から見えていた小高い場所がぐんと近づいてきました。
もう一度大分自動車道をくぐると少しだけまた歩道がない区間ですが、その向こうに筑後川が見え始めました。川幅は広く、そして浅瀬の中に石畳が見えました。
いよいよ山田堰です。
*山田堰展望台*
わずかに勾配のある道の先に、河岸に森が見えてきました。地図には「山田堰展望台」とあるので、小高い場所から眺めるのだろうと想像していたら、川のすぐそばに展望台がありました。
東から西へ、緩やかなS字に筑後川が蛇行しています。そこに山田堰があり、上流から下流への川面全体を眺めることができました。
左岸側から右岸へと石畳が広がり、右岸に近い場所で石畳の途中が切れて本流が流れています。
石畳はそのまま右岸の用水路へと筑後川の水を誘導してるようです。
石畳に水がぶつかる音は静かで、しばらくその水音に聴き入りました。
左岸がわの山並みと、白い石畳と真っ青な筑後川の水。
美しい風景です。
吉野川の第十堰を思い出しました。
公園の片隅に石碑がありました。
中村哲氏<いのち>のことば
100の診療所より1本の用水路
山田堰は、1790年に古賀百工翁が築造し、地元朝倉の農地を潤し続けている世界かんがい遺産です。
中村哲氏は、この山田堰を参考にアフガニスタンにて用水路を建設し、現地農業の基盤を作りました。時代、場所を超えて多くの人に恵みをもたらしが中村哲氏の功績を称え記念碑を建立いたします。
以前、1984年にアフガニスタンの医療援助活動を始めた氏の活動報告会を仲間内で開いてお会いしたことがありました。
1980年代、まだ海外医療救援団体(NGO)なんて変わった人がやるものぐらいの時代でしたし、何をしたら良いのか手探りでした。日本の医療をそのまま持っていっても現地では意味がない、という当たり前のことに葛藤するような黎明期ですね。
その試行錯誤から1本の用水路で生活を支える援助になったのだろうと、時折伝わるニュースを受け止めていましたが、2019年の訃報に際し、その1本の用水路もまた現地ではさまざまな争いを生んでいたのだろうかと思いを馳せていました。
同じ頃から日本各地の川や用水路を訪ね歩くようになり、世界かんがい施設遺産を知りました。
日本各地の用水路もまた長い長い水争いや災害を乗り越えて現代の農業へと続いていること、その用水路建設への昔の人たちの思いが今の豊かな生活へとつながっていることに、この歳になって初めて認識することばかりでした。
まことに1本の用水路は大事だと、また山田堰の美しい石畳をしばらく眺めました。
「散歩をする」まとめはこちら。