分娩に健康保険が適用されるらしい話で、分娩施設で働くいちスタッフでは何がどうなるのか、ほんとわからないままです。
これまで散々、妊娠・分娩・産褥経過の異常に対して健康保険での支払いがどんどんと切られてきた印象があって、それも「分娩施設が存続のために値段を上げざるを得ない理由の一つ」だったのではないかと思うのですが、何がどう変わるとこんな大盤振る舞いになるのか不思議ですね。
*30年以上「少子化対策」をしてきて、これで今更何の効果があるのだろう*
新型コロナ拡大の中でなんとか安全に出産できるようにと青色吐息だった分娩施設に、突然元首相の発言だけで制度が変わるのを知ったのが2023年、そして政府は26年度をめどに正常分娩の保険適応を目指すという発表が2024年2月にあり、来年はどうなるのだろうと思っていたら、どうやら27年度に延期になるニュースがありました。
(2025年12月13日、毎日新聞)
厚生労働省は、出産にかかる標準的な費用の無償化に向け、現状では病院ごとに異なる分娩(ぶんべん)費用を全国一律の公定価格にする検討に入った。公的医療保険で出産費用を全額まかない、代わりに出産育児一時金はなくす。4日の社会保障審議会に案を出す。
少子化の一環で、出産の経済的負担の軽減が目的。帝王切開などの分娩に伴う保険診療は、現行3割の自己負担を継続する方向だ。「お祝い膳」やエステなどのサービスは全額自己負担を軸に検討を進める。
現行の制度では、正常分娩は公的医療保険が適用されず、出産一時金が支給される。出産費用は原則、医療機関が自由に設定できる。一時金は2023年度に42万円から50万円に引き上げられたものの、出産費用も年々上昇。正常分娩による出産費用は、24年度の全国平均で約52万円。地域格差も指摘されており、最も高い東京都では約65万円だった。
厚生労働省では、公定価格として「基本単価」を設け、分娩数に応じた診療報酬を支給する。全国一律の公定価格にすることで、地域差による不公平感をなくすとともに、費用の透明化を図る狙いがある。
マッサージや写真撮影など多様化するサービスが出産費用に含まれているという指摘があり、「見える化」を進めて妊婦が選べる環境を整える。
厚労省は年内に制度の骨格をまとめるが、基本単価の額など詳細については検討を続ける。当初26年度を目指していた導入は、27年度以降になる見通しだ。全国一律で制度を開始するのではなく、可能な施設から新制度に以降することも検討する。
(強調は引用者による)
読んでも今ひとつ漠然としてよくわからないし、「全国一律の公定価格」と言いつつ「全国一律で制度を開始するのではなく」というあたり、おそらくまだまだ議論が分かれているのだろうという印象ですね。
*「帝王切開は3割のまま」というのはどういう意味だろう*
もっと理解できない部分は、「帝王切開は3割のまま」でした。
帝王切開は、逆子とか母児の状況など医学的適応があるから行われているのに、「本人が望んでいないのに帝王切開になった方」はなぜ「出産費用の標準的な無償化」から外されるのだろう。
だとすると、妊娠中の悪阻(つわり)や切迫流早産などの通院や入院も3割負担のままなのだろうか。こちらの方が、予期していない出費で大変そうですよね。
「全国一律」というのなら、現在の新生児に対して行われている聴覚検査や先天性代謝異常検査なども、自治体の事業ではなく国で一律、同じ内容で無償にしてくれるといいですね。
そして相変わらず見えてこないのが、「胎児は被保険者となるのか」という点ですね。
胎児検査や胎児治療が進んでいる中で、まだごく一部しか認められていない保険診療を、どこまで「胎児」に広げるのだろう。
胎児を被保険者にすれば、医療機関への健康保険の支払いは母体と胎児の二人分になるのだろうか。
ただ、胎児を人としていつから認めるか。これは一筋縄にはいかない社会のさまざまな葛藤が巻き起こりそうです。
これまでこの話題がニュースになるたびに、社会は歓迎しているかというとそうでもなくて、「妊娠・出産は自分で選択するものだから自分で準備した方が良い」「むしろその後の長い期間の子育て費用が大変」という至極真っ当な反応がおおいですね。
誰がこれを提案し、国会で審議することもなく推し進めているのだろう。
やはり「聖域なき見直し」を目論んでいる人たちでしょうか。
医療現場にとって青天の霹靂なことが起こる時には、いつも現場のニーズではなく誰かの思いつきによる唐突感がありますからね。
ハシゴを外されるという感じ。
少子化対策とか子育て支援とかにんじんで喜ばせるように見せるニュースで始まっても、その後はどんどん綻びが見えてくる。
おそらく1990年代ごろからの医療のアメリカ化(国民皆保険を無くして民間保険)の流れの一端ではないか、帝王切開直後のお母さんに赤ちゃんを抱っこさせただけで高額な請求をされる、そんな感じ。
「赤ちゃんに会いたいでしょう」と連れて行き見守る、その気遣いだけで請求書が来るような周産期看護にはなってほしくないですけれどね。
それが新資本主義とか新自由主義なのかな、と妄想しています。
なんだか考えや計画が浅く感じるのは、医療現場を知らない経済財政諮問会議が決めて財務省が決定するという流れとともに、失敗からより良くするというシステムがない世界だからですかね。
どんなシステムになることやら。
*おまけ*
おそらく都内の分娩施設では、今年の10月からの「少子化対策の無痛分娩に10万円補助」というこれまた思いつきのような政策で、この1年ほど、分娩予定者が大きく増減したりスタッフ数の確保などで翻弄されて疲弊しているところも多いのではないかと思います。
ただでさえ無痛分娩はマンパワーが必要なのに10万円に引かれて希望者が急増したら、その皺寄せはどこにくるか、都庁の皆さんは知らないでしょうけれど。
来年はこの健康保険化の問題で、また現場は右往左往しそうですね。
都内は分娩施設が多い特殊な場所だからこそ対応しているけれど、お産する場所さえない全国各地の状況のことがいつも頭の中にあって、日本の周産期医療の行末が本当に心配ですね。
分娩施設が減り、せっかく国家資格を取っても経験を積めない助産師が増えている印象です。
20年ぐらい前の産科崩壊と言われた頃は、全国のお産を考える意見がたくさんあったのに、最近は自分のところさえよければ、自分が大事にされればという雰囲気に押されているような。
医療や福祉を全国の視点から考えることは、新資本主義とは相容れないのだと思うこの頃。
悲しい風潮ですね。
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