帝王切開について考える 11 <「帝王切開と『母乳育児』」という考え方>

昨日の「赤ちゃんとの対面」の記事の最後に、「2000年代からすべきものに代わっていった」印象があると書きました。


「周産期医学」2010年10月号(東京医学社)の「特集 帝王切開ー母体と新生児に与えるインパクト」に、「帝王切開と母乳育児」という記事があります。


その「はじめに」には以下のように書かれています。

 母乳育児成功のための10か条(以下、10箇条)の中でも、ステップ4:出産後30分以内に母乳を飲ませられるように援助する. ステップ7:終日の母子同室. ステップ8:欲しがるときはいつでも母乳を飲ませる. の3項目は厚生労働省からの授乳に関する支援ガイドの中でも特に強調される重点項目となっている。帝王切開で出産した場合、こういった母乳育児推進の立場からは母子ともにネガティブな影響を受ける可能性がある

その「新生児への影響」では、「1.NICU入院・呼吸障害合併症率が増加する」「2.母子分離され早期接触ができる可能性が少なくなる」「3.乳汁補足され、結果として母乳育児に支援がでる可能性が少ない」が挙げられています。


いずれも可能性の話のようですし、特に1の「呼吸障害合併率が増加」は帝王切開そのものによる影響と思うので、どちらかというと「帝王切開術によって出生した児は、『母乳育児』よりは胎外生活への適応が最優先課題」ということではないかと思うのですが・・・。



もうひとつ、ペリネイタルケア「助産師だからこそ知っておきたい術前・術後の管理とケアの実践 帝王切開のすべて」(2013年、メデイカ出版)では、「帝王切開時の母乳育児支援」のポイントとして次の3点が書かれています。

母親が裸の新生児を抱くことが育児行動の原点であり、早期授乳につながる。

帝王切開で使用される薬剤が母乳に移行する可能性はあるが、少量であり、児への影響は少ないことを理解する。

・出産の振り返りを行い、育児に前向きになれるよう、出産方法について母親に後悔が残らないようにする。


うーーん。3番目ももやもやするのですが、今回は「母乳育児」に焦点をあてていこうと思います。


<ここまで来た、「術中の早期皮膚接触」>


上記の本のどちらにも、「帝王切開手術中に早期母子接触を実施している」ことが書かれています。


たとえば「周産期医学」では、こんな感じ。

当院では帝王切開時には必ず助産師が携わりカンガルーケア開始基準に沿って手術室で母子早期接触を実施している。(中略)
術中の母親の胸部に児を載せ早期接触を行う。この際、児に吸啜反射がみられ、かつ母親の血圧・呼吸状態が安定して吐気や気分不快がない場合には児の乳頭吸着・吸啜介助を実施する。


2010年前後にはネット上でも「帝王切開中にカンガルーケアをしている」ことを公開している施設があり、正直なところ、わたしには「ここまできてしまったか」という感想しかありませんでした。


ちょうど私はkikulogに出会った頃で、「してもしなくても変わらないことに効果を持たせる」ことがニセ科学的なことへの入り口になることを理解し始めていので、この手術中の早期母子接触が母乳育児によい効果をもたらすかのような考え方も懐疑的に受け止めることができました。


それにしても、シュールな光景ですよね。
母親の下腹部は大きく切り開かれていて縫合を始めているところに、新生児が母親のおっぱいに吸いつかされているのですから。


これも、帝王切開術の管理や看護には「第1相傷害期  術中から2〜4日」という周手術期の考え方が抜け落ちているからではないかと思います。


帝王切開と母乳育児」あるいは「帝王切開と母乳育児支援」という言葉が当たり前のように使われるようになった背景が、私が「2000年代からすべきものに代わった」と感じる正体なのかもしれません。



「母乳育児という言葉を問い直す」についてはこんな記事を書きました。

1. <「母乳育児」という言葉が使われ始めたのはいつ頃か>
2. <「母乳育児」の定義はない>
3. <離乳食と補完食>
4. <母乳育児のための「補完食」>
5. <補完食とカップフィーディング>
6. <補充食を食べさせる混合哺育>
7. <「断乳」と「卒乳」>
8. <卒乳・・・より長く飲ませる方向へ>
9. <断乳と卒乳、そして乳離れの境界線>
10. <おしゃぶりと卒乳の類似点>
11. <母乳とむし歯>
12. <2歳までの母乳育児推進とむし歯の関係>
13. <妊娠中の授乳>
14. <タンデム授乳>
15. <1960年代の母子手帳より>

「『早期母子接触』ってなんですか?」はこちら。

1. <母子の当然の権利?>
2. <裸でなければだめですか?>
3. <蘇生術が必要なケアって何ですか?>
4. <危険性には慎重な対応を>