母乳のあれこれ 11  <助産師はどのように授乳中の栄養を学んでいるか>

こちらの記事で、母乳と水分摂取に関してどのようにお母さんに説明するか、案外、教科書や文献にも書かれていないことを書きました。


では授乳中の食事はどうでしょうか?


「Q&Aで学ぶ お母さんと赤ちゃんの栄養」(「周産期医学」2012年増刊号、東京医学社)の「産後の体重管理と母乳育児に向けた食生活」(p.393〜)では以下のように書かれています。

授乳期の食事摂取基準は、非授乳婦のその年代におけるエネルギーと、各栄養素量に授乳に伴い増加する必要量を付加する形をとって、「日本人の食事摂取基準」(2010年版)として厚生労働省から発表されている。表2に妊娠期・授乳期の食事摂取基準の一部を示す。
(表は省略します)

このように栄養学的に基本が定められた上で、以下のように書かれています。

授乳婦は身体活動量の程度にかかわらず350kcal/日を推定エネルギー必要量に付加することが推奨されている。しかし、授乳期間、泌乳量、妊娠中の蓄積脂肪等は個人差が大きいので、実際にはそれぞれの条件を考慮して、個別に対応していかなければならない。


これは二十数年前の助産師学生時代も30年前の看護学生時代も、栄養学の各論の中で学びました。基本的には変化はないと思います。


<実際の保健指導ではどうか>


この「身体活動の程度にかかわらず350kcal/日を推定エネルギー必要量に負荷することが推奨されている」という簡潔な基本ではなく、実際には「おっぱいによいあれこれ」となっていろいろな情報になって広がっています。


ところが案外と、助産師の基本的な業務を書いた本には、「授乳中の食事」については何も触れられてもいないことに気づきました。


まず、私の助産師学生時代の教科書「母子保健ノート2 助産学」(日本看護協会出版会、1987年)です。
この教科書ではなく栄養学の中で上記の基本は学んでいますが、こちらには「正常褥婦のケア」として具体的に産後のケアや「保健指導」が書かれています。


排泄・清潔などの日常生活上の注意点や母乳育児のための「指導内容」、あるいは腰痛などとトラブルへの対応について書かれているのに、「授乳中に何をどれだけ食べるか、どれくらい水分摂取が必要か」に関しては、一言も書かれていません。


また、助産師の基本的な業務についてまとめてある「助産師業務要覧」(日本看護協会)の2008年版、2012年版ともに、産褥期のケアの中では「授乳と食事」については何も書かれていません。


助産師があちらこちらで「これが母乳によい」と広げている情報は、いったいどこからどのように生み出されているのでしょうか。


最近になって助産師の中にマクロビが浸透しているように、助産師の中ではまだまだ、妊娠・産後の栄養については上記の基本をはるかに逸脱した話が信憑性を持って伝わりやすいように感じます。


まぁ、「授乳中は妊娠中より栄養のあるものを少し多目に」とか「何事もバランスよく、ほどほどに」と説明する助産師よりは、なんだかちょっと理論っぽい話や経験が多そうないろいろな話をしてくれる助産師の方がすごい人に見えやすいかもしれないですね。




「母乳のあれこれ」まとめはこちら