前回の記事で紹介した日本の看護大学在学中にアメリカ留学をした方は、その後どのような道を歩まれたのでしょうか。
元気に、臨床で働いていてくださるとうれしいですね。
この方が学生だった2000年前後は日本でもすでに入院期間短縮化、そして重症度別に病院が集約されて一般病床が急性期・亜急性期そして療養病床への分化が進み始めていました。
それはそれで悪い面だけではなかったと思います。
救命救急や急性期の病床を確保することで、地域全体で連携しあう医療のシステムが一気に進んだと思います。
ところがそれまでの「総合病院」が、全く別のものになってしまいました。
「急性期」を標榜する病院では、厳密に入院期間を守ることが求められる時代になりました。
患者さん一人一人の回復レベルに関係なく、急性期の治療が終われば転院を余儀なくされます。
患者さんにとっては、急性期の治療が終わってまだリハビリなどが必要であれば同じ院内の他の病棟に移れば心身の負担は少ないものです。
以前の総合病院は、自施設で患者さんの回復期まで対応していました。
ところが、同じ病院内に回復期の亜急性あるいは療養病床を持てば、病院の経営が厳しくなるような医療政策が次々と打ち出されたのが2000年代後半でした。
アメリカの2日に比べれば長いのですが、患者さんや家族にすれば数日から2週間程度で「次に入院する病院」を探す必要が出てきました。
<看護職の卒後教育にどのように影響するのか>
こうした急性期を対象にする病院へ集約され始めたことは、看護職の卒後教育にも大きく影響するのではないかと心配です。
総合病院での卒後教育に関わっていた時期から私も10年離れてしまったので、現在の状況や問題に関しては正直なところよくわかりません。
ただ、10年ぐらい前はまだ急性期病院と一般病院の区別は厳然としていなかったので、新卒の看護職が総合病院に就職すれば急性期から回復期まで継続して経験し、基本的な知識や技術を習得することができました。
現在の学生は、卒業の時点で急性期病院への就職か、亜急性期・回復期あるいは療養型の就職かを決める必要に迫られているのでしょうか?
そしていきつく先は、前回のアメリカの病院のように入院直後の「薬渡し」、言い換えれば診療の介助あるいは「権限拡大」として医師に許された医療行為の一部を行う高度専門看護師だけが急性期病院では必要とされる社会なのでしょうか?
<「地域医療」の看護と言うけれど>
1998年に書かれた「アメリカにおける医療の変革に対する大学看護教育の現状と課題」の「おわりに」には以下のように書かれています。
在院日数の減少によって、入院看護中心から、外来ケア、地域ケアへと看護は移行しつつある。その過渡期にあって看護教育もその変化に対応し、教育プログラムの変更が重要な課題になっている。
これが書かれて十数年、日本の病院はアメリカに近づきつつあるように思います。
ある看護大学のHPには次のように書かれていました。
「入院治療や入所による看護・介護ではなく、地域の中で、看護師、保健師、理学療法士、ヘルパー、医師など、さまざまな医療専門職が一人の患者さんを支えていく。それがこれからの地域医療です。そして臨床診断能力のある看護師は、重要な位置を占めることになるでしょう。
急性期病院における入院医療が3ヶ月以内に限定されたことにより、従来は入院して治療を続けていた方が健康障害を持ったまま地域に戻り、通院や在宅治療を通して健康を回復していくことになった。
前回も引用したように、「極端な在院日数短縮やRN(正看護師)の現象によって、医療の質の低下がおこり、不安定な状態のまま退院せざるを得ない患者の再入院」が起きているアメリカの状況を見ると、「入院期間は短縮されても、地域医療で支えれば大丈夫」と本当にいえるのでしょうか。
なにより、看護職の2つの柱である「診療の介助」と「療養上の世話」をバランスよく経験するためには、卒後すぐに診療介助の技術が主になる急性期か療養上の世話が主になるそれ以外の一般病院かの2極化が進んでしまうのではないかと心配になります。
いえ、杞憂であればよいのですが。
「看護基礎教育の大学化」まとめはこちら。