看護基礎教育の大学化 6 <スキルミクスと「質の高い看護」>

前回の記事で紹介した「看護師不足の世界の動向」の中に、「スキルミックス」という言葉が出てきます。


「看護師の数の確保とスキルミックスはどんな関係にありますか?」という質問に以下のように答えています。

たとえば、93年にはカナダで医療費削減政策が出されました。看護師の大勢がリストラに遭い、一時解雇やフルタイムからパートタイムへの移行を要求されました。その時に、実際、看護師はどれくらい必要かという研究がずいぶん行われていましたね。ある研究では、看護師(RN)の数が多い施設よりも高度なスキルミックス(RN、准看護師、看護助手など)を持つ施設のほうがアウトカムがよいということが発表されています。

「アウトカム」はなにか、次のようです。

患者さんの死亡率や術後の合併症、誤薬の発生件数もスキルミックスで質の高い看護を提供している施設のほうが少ないという結果でした。

スキルミクス(スキルミックス)とは何かについて紹介する前に、こうした「研究」は何のためにあるのかを意識しながら、スキルミクスによる質の高い看護の別の影響が書かれたものを紹介してみます。


アメリカの看護は「薬渡しがメイン」>


看護大学在学中にアメリカに留学した方の「アメリカの看護について思うこと」というサイトがありました。
何年ごろに書かれたものかはわかりませんが、「看護婦」という言葉から2001年以前かと思います。


その中の「アメリカの病院看護」を読むと、「アウトカムがよい」とはどういうことががわかるかもしれません。

アメリカの看護学生の友達が言ったことには、アメリカの看護婦の仕事って、passing medicationがメインだよ、ということ。要するに、薬渡し。これは実習に行って実感することになる。

まず知るべきことは社会の制度が違うこと、これだ。日本では国民皆保険で入院期間も長い。だいたい1週間〜10日は入院する。よね?(笑)国民性としても、病気になった時はおとなしく医者の言うことを聞いて早く治しちゃおう、ってかんじではないだろうか。アメリカとは全く正反対である。入院期間は平均2日くらい。1週間もいたら長い!と言われる。腎移植を受けた人(兄弟間で移植)お見舞いに行ったのだが、術後2日に行ったらドナーはもう退院しておりレシピエントも翌日退院だった。ご存知のように保険は個人で買うものだ。もちろんMedicare(高齢者用)やMedicaid(低所得者用)といった公的保険もあるが、たいていは個人で保険会社の保険を買っているし、カバー額もそれほど高くないので金銭的負担が大きい。ゆっくし養生して完治させるというよりは、とりあえず今の症状を落ち着かせる、そんな感じで入院している

だから、もちろん看護内容も違ってくるのは当たり前だ。入院期間が短い=急性度が高い、ということだ。アメリカの看護のメインが、観察や与薬になるのも当たり前

「看護教育の大学化」という信念を持った看護研究者よりは、よっぽど本質に迫った見方ができていると思いますね。


入院期間も日本では想像できないほどの短さで退院すれば、「患者さんの死亡率や合併症、誤薬の発生件数が少ない」という退院時のアウトカムが良いという結果も当然かもしれません。


<入院短縮の真のアウトカムは?>


2日ぐらいで退院した患者さんはどうなっているのでしょうか?
「アメリカにおける医療の変革に対する大学看護教育の現状と課題」の「おわりに」に以下のように書かれています。

極端な在院日数短縮やRNの減少によって、医療の質の低下がおこり、不安定な状態のまま退院せざるを得ない患者の再入院が、さらに余計な医療費を増大させる事例もでてきた。

本当に「患者さんのための医療」を考える研究者であれば、このような現状に「スキルミックスで質の高い看護を提供」という言葉は使えないのではないかと思います。


まして正看護師だけにする「看護資格の1本化」とは正反対のスキルミクスとの矛盾がかくされたまま、看護基礎教育の大学化を進めることは将来に大きな禍根を残すのではないかと心配です。


でも、「アメリカの看護について思うこと」に書かれていることを読んで、こうした思いで看護を学んでいる方がいらっしゃったことに少し希望の光が見えました。

私はアメリカに来てアメリカの看護を見て、ますます日本の看護が好きになりました。日本の方が看護の醍醐味いっぱいだと思いませんか?数日入院している中で、患者さんとコミュニケーション取りながら看護を展開する。この患者さんとのコミュニケーションという一番楽しいところがアメリカの看護にはかけていると思います。

お手伝いさん的と言われようと清拭や洗髪やおしゃべりや・・・、そういうことも含めて「看護らしい」んです。やっぱり日本のほうが楽しそうだな〜。

本当に患者さんにとってのアウトカムとは何でしょうか?