記憶についてのあれこれ 102 <耳が聞こえにくくなるということ>

医療関係のニュースを配信しているm3.comに、「新型人工中耳の保険運用了承」という記事がありました。

新型人工中耳の保険運用了承
中医協、伝音難聴と観音難聴含む混合難聴に使用

化学工業日報、2016年7月29日(金)配信


厚生労働省中央社会保険中央協議会は27日の総会で、メドエルジャパンの新型人工中耳「メドエル人工中耳VSB」の保険運用を了承した。9月に収載予定。C2(新機能・新技術)区分で保険適応される。伝音難聴、混合難聴(観音難聴も含む)の患者に使用できる。償還価格はインプラントが115万円、オーディオプロセッサーが63万7000円、カプラが4万5800円。

このニュースが関連していたのだろうと思いますが、1ヶ月ほどまえ、テレビ東京の日曜日の5時台の「話題の医学」で難聴とこの人工中耳について説明していました。
この番組は医師向けなので難しい内容が多いのですが、看護にも必要な治療方針の変化を学ぶのにわかりやすいので、関心のあるテーマの時には録画をして観ています。


なぜ「難聴」に関心があるかというと、1つは新生児を対象に行われている新生児聴覚マススクリーニングに関係していることです。
この聴覚検査は平成12年(2000年)から試験的に始まりました。当時私が勤務していた総合病院でも、このモデル事業に参加していたのですが、なかなか眠らない新生児を相手に臨床検査技師さんが格闘していた記憶があります。


あれから十数年のうちに、検査機器も簡易化されて産科診療所では看護スタッフが実施しています。
まあ、機械をつけると眠っていた新生児も目が覚めててこずらせるのは同じですが、以前に比べたら寝付かせ方はうまくなりました。


この新生児スクリーニング検査で「要再検」になると、1ヶ月以降で再検査かより専門的な病院への紹介をして、聴覚異常の早期発見、リハビリへとつなげていきます。
もちろん出生時には聴覚は正常でも、成長とともにその機能を失う機会はありますが。


産後のお母さんたちは検査の結果や、時にはしばらく経過観察が必要という事態にドキドキさせられるものが増えました。
不安が強いお母さんには、早期の療育の機会が大事なことがうまく伝わるとよいなあと思いながらお話しています。



<父も難聴だった>



この番組を観たもう1つの理由は、父が若い頃から難聴だったことでした。


通常の会話は難なくこなしているように見えるのですが、私が子どもの頃から父は「テレビの甲高い声は聞こえない」とよく言っていましたし、家族で話をしていてもあまりかみ合わないことがしばしばありました。
夕食が終わると早々に書斎へ引き上げて、子どもにとってはつまらない父だったのには、この難聴も大きな理由だったのだろうと思います。


父の難聴の理由は、士官学校の学生で終戦を迎える前までに、演習であるいは戦場での砲弾の音が原因だったらしいことは母から聞いたことがあります。
現代のような防音機能のよいイヤーマフなんてなかったのでしょう。


定年の頃には、おそらくかなり聴力が失われていたのではないかと思います。
20歳前後までに身につけたコミュニケーション能力を生かして、相手の口の動き、表情、あるいはその場の状況などを瞬時に読み取っていたのではないかと思います。


母も何度か補聴器を勧めたらしいのですが、頑として拒否されたとのことです。


「話題の医学」の中では、難聴も認知症のリスクであると説明されていました。
ああ、これが20年前にわかっていたら、父に補聴器を何としてでも勧めただろうなとちょっと胸が痛みました。


そして、この人工中耳がもし半世紀前にできていたら、父はもっと音や会話を楽しみながら生活できたのかもしれません。


でも、そのどちらも絶対に受け入れなかっただろうな。父は本当にそういうところは頑固なので。


こうして治療法や医療機器が有効だと認められると保険適応になって、誰もが手が届く費用で使えるようになる国民皆保険制度ができたのもたかだか半世紀


この人工中耳の有効性について、専門的なことは全くわかりませんが、聴覚を失った方々に朗報でありますように。





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