医療介入とは 74  <助産師と医療機器に関する法律>

現代の医療の現場では数多くの医療機器があります。


私たち看護職の身分や業務を定めた保健師助産師看護師法が、1948(昭和23)年に定められました。


その法律の中に「医療行為の禁止」という条項があります。

第37条 医療行為の禁止


保健師助産師、看護師または准看護師は、主治の医師又は歯科医師の指示があった場合を除くほか、診療機器を使用し、医薬品を授与し、医薬品について指示をしその他医師又は歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならい。ただし、臨時応急の手当てをし、または助産師がへその緒を切り、浣腸を施しその他助産師の業務に当然付随する行為をする場合は、この限りでない。

この保助看法ができてから65年たった現在、当時では考えられないほどの医療機器や医薬品を看護職は扱うようになりました。


医療機器といえば血圧計や酸素ぐらいしかなかったものが、現在では生体モニター(血圧、心電図、サチュレーションモニター)、人工呼吸器、輸液ポンプなどの使用は当然のこととなり、それ以外にも各科の独自の医療機器を看護職も扱うようになりました。


たとえば私の勤務先にある医療機器で、実際に看護職が使用しているものを思い浮かぶだけ書き出してみましょう。

生体モニター、輸液ポンプ、臍帯血血ガス測定器、吸引器(羊水を吸引するため)、インファントウォーマーと酸素吸入器、ドップラーと分娩監視装置、保育器、光線療法の治療器、聴覚検査器、簡易血液検査器、血糖測定器、黄疸計、ビリルビン測定器、尿検査試薬、破水診断薬、オートクレーブ


「医療機器」とは何か、Wikipediaに書かれていた「医療機器規制国際整合化会議」というところの定義を引用します。

あらゆる計器、機械類、体外診断薬、物質、ソフトフエア、材料やそれに類推するもので、人体への使用を意図し、その使用目的が疾病や負傷の診断、予防、監視、治療、緩和等、解剖学または生物学的な検査等、生命の維持や支援、医療機器の殺菌、受胎の調整等に用いられるもの

看護職が医療機器を使用する場合、医師が診断・治療をするために必要な情報を観察(監視)し、検体を取扱い(検査)、そして生命の維持や支援(看護)をするためであるといえるでしょう。


また感染予防に必要な対応のために医療機器や医薬品を使用することもあります。


いずれも、看護職は「医師の指示のもと」「診療の補助の範囲」で医療機器を取り扱ったり、検査を行うなどの医療行為が許されています。


前回の記事で「看護師・助産師のための超音波画像診断」という本を紹介し、その序文について考える予定でしたが、その前に助産師と医療機器についての法律を考えてみようと思います。


助産師に例外的に許された医療行為>


保助看法の第37条には、看護職が「医師の指示を受けず」に実施する例外的な医療行為について書かれています。


ちょっと退屈な法律の話ですが、お付き合いください。


ひとつが「臨時応急の手当て」です。
これは会陰裂傷縫合術のように、助産師が自らの権限を拡大使用とする時に必ず使う言葉ですが、調べても具体的に何を「臨時応急の手当て」というのか明確にしたものをみつけられません。


おそらく、それは看護職(あるいは救命救急士など)が業務中に医師が側にいない状況で自らの判断ですぐに救命をする必要がある状況に遭遇した場合を想定したものだからであると思います。


医師へ報告・指示を受ける猶予もないほど切羽詰った状況で、看護職の知識と経験から血管確保したり酸素吸入を始めたり、法的に許されている業務を逸脱しても罪には問わないということだと認識しています。
こういう状況を想定した例外規定なので、漠然とした表現である必要があるということかもしれません。


もうひとつは、助産師に許されている例外的な医療行為について書かれています。

助産師がへその緒を切り、浣腸をしその他助産師の業務に当然付随する行為をする場合は、この限りではない

助産師の業務」については、保助看法第3条に書かれています。

第3条 助産師の定義


この法律において「助産師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、助産又は妊婦、じょく婦若しくは新生児の保健指導を行うことを業とする女子をいう

正常に経過している妊産褥婦さんと新生児に関しては、医師の指示がなくても助産師の判断で浣腸も実施できるし、「へその緒」を切ることもできるということが書かれています。
法文には明記されていませんが、トラウベで胎児心拍を聴取するのも「助産師の業務に当然付随する」医療行為ということになると思います。


この一文が、「正常経過のお産は助産師だけで介助できる」という強固な信念の法的根拠に使われ、さらには正常経過の妊娠・出産経過の中で助産師の医療機器使用の権限拡大にも使われているような印象です。


「お産は病気ではないから」という言葉は、病気ではないから医療ではないあるいは医師の立会いはいらないという意味で使われるのですが、その背景には医療に組み込むためには社会的なコストの負担が必要という背景があることをこちらの記事で書きました。


またこちらの記事で紹介したような、保助看法第37条は「産婆救済法」であるという見方があることを、私たち助産師のほとんどが知らされてこなかったと思います。

医師法の例外措置として、戦前からいた産婆に正常に限って助産をしてもよいとした法律


保助看法ができた時代とは比較にならないほど助産師が取り扱う医療機器が増えた現在、「医師の指示」とは何か、なぜ必要なのでしょうか。


そのあたりから、助産師と超音波診断機器について引き続き考えてみようと思います。