発達する 8 <飛び込みに挑戦するための段階>

先日、スポーツ庁長官が高校の授業における飛び込みスタートの禁止について以下のように発言したことへの批判の記事がありました。

飛び込みという行為は楽しみでもある。飛び込みを思い切りできる環境や指導者への資質整備が大事。1mのプールでも飛び込みの練習はできる。指導法が問題で、質の高い教員を採用することが大切。スタート台からは技術を要するので、最初は水面に近いところから段差がない形で飛び込みをする。なんでもかんでも危険だからと全面禁止し、もやしっ子を育てあげていくのはどうかなと思う。
東京新聞、2017年3月7日)

「なんでもかんでも危険だからと全面禁止にするのはどうかなと思う」であったら、まだ検討の余地があったのだと思いますが、「もやしっ子」のひと言が感情を刺激してしまったのかかもしれませんね。


鈴木大地長官は日本水泳連盟の前会長として競泳会場ではよくお見かけしましたし、長官になってからも表彰式のプレセンターとして選手を称えている姿を何度も見ました。
いつも偉ぶったところはなく、会場でも飄々としていて、ソウルオリンピックで優勝した映像の頃となんだか変わらない真っすぐな人だなという印象で、私はとても好感を持っていました。


今回の発言を聞いて私の鈴木大地元選手へのひいき目の感情もあるのですが、失言というよりも、長官自身が「飛び込みが怖かった」ことを本当に忘れてしまうほどの達人の域だからではないかと感じたのでした。



<飛び込むための上達段階>


私自身は、高校時代の体育で飛び込みの練習をしたかどうかも記憶がさだかではないのですが、飛び込みは苦手です。
公営プールでまだ飛び込みが禁止されていなかった90年代頃でも、あえて飛び込みはしませんでした。
何が嫌かといえば、水のない空気中と水との境界で体に受ける抵抗が、「体幹部を打たれる痛み」になる怖さだったのだとと思います。


今でこそ、鮮明な水中映像で競泳選手が飛び込む様子を見てイメージトレーニングもできますが、水面に対してスーッと入り込んでいく様子がわかります。


こちらの記事で紹介した「速く美しく泳ぐ!4泳法の教科書」で、クラウチングスタート(両方の足を前後させて蹴って入水する方法)が以下のように説明されています。

小さい面に身体をすべり込ませて入水


入水時の面積と入水後の速度は反比例の関係がありますので、できるだけ小さい面に身体を入れていくことが求められます。身体感覚では「スポッ」とすべり込むように水に入る感覚で、見た目では水面上に大きな水しぶきが立たないように入ります。

入水後すぐに姿勢を水平にしようとすると、入水時に腰や足が水をたたいてしまうような感じになり、入水時の面積を小さくするコツとしては、入水後、少しの間、身体の角度を変えないようにします


「入水時の抵抗のない角度を理解でき、入水後は身体の角度を変えないようにする」
つまりは、飛び込みもまたストリームラインが基本であることがわかります。


やはり飛び込みというのは見よう見まねでできるものでも、優秀な指導者ならケガを防げるわけでもなく、自分の目で確認できない空間の動きでつくられていることが体得できるだけの練習が前提ではないかと思います。


そして、多少、入水角度を間違ってもケガをすることのない水深も、やはり事故防止には絶対に不可欠だと思いますね。


テレビで観たスクーマン選手の美しい飛び込みの水中映像をそのまま真似したら、1mの水深では無理なのですから。





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